本日は人から聞いた不思議なお話を3つ添えました。これはほぼ聞いたままのお話です。
聞いたままなのでクライマックスもオチもありませんが、怪談の実際をご存知の山口先生様にはよくご理解いただけると思います。
第一話
小学生の時、お友達から聞いた話です。
お友達のお父さん、ここではKおじさんとしますが、Kおじさんが体験したというお話です。
Kおじさんが若い頃、多分昭和40年代だと思われますが、仕事で地方の商人宿(死語)に泊まったときのことです。民家と言っても良い小さな古い宿で、二階が客室。階段を上がってすぐがKおじさんの部屋でした。
用件も終わり、軽い接待を受けた後、Kおじさんは宿に戻り入浴を済ますと、すぐに寝床につきました。滞りなく任務ををこなした満足感と疲労感で、旅先の慣れぬ部屋とはいえ、Kおじさんはすぐ深い眠りに入ったそうです。
そしてどのくらい経ったのか、ふと目が覚めました。なにやら物音が聞こえるのです。
がちゃん、かた、がちゃん、かた、と、ゆっくりゆっくり、何かが片足を引きずりながら階段を上ってくる感じがしました。
がちゃん、かた、がちゃん、かた、の足音らしきものは階段を上り終え、Kおじさんの部屋の前で止まったことがわかりました。
今にも襖が開く、というその時、
「だれだあ!」
腹のどこから力を込めて、Kおじさんは怒鳴りつけました。
すると、がちゃん、かた、がちゃん、かた、という音を立てながら、何者かはどこかに去って行きました。音が消えるとすぐにKおじさんは寝てしまったということです。
第二話
専業主婦のYさんから聞いたお話です。
ある日、洗濯物をたたんでいたとき、Yさんは急に切ないような悲しいような寂しいような、「誰か何とかして」というくらいの胸騒ぎを覚えました。
なんの心当たりもありません。
『今のはなんだったの?』と、突然襲った感情にうろたえました。そしてその日の夜遅く、夫の実家から電話が入りました。
実家の向かいの家が火事になり、死者が出たというのです。夫が幼い時から遊んでくれたり、励ましたくれたり、何かと可愛がってくれてきた向かいのおじさんがなくなったというのです。
その電話を受けていたときの夫は、え、そうか、そうか、と、聞かされる話に応えていたが、やがてうなずくだけになり、下を向いて両瞼を抑え続けた。
その災難で大騒ぎになったのは、ちょうどYさんが正体のわからない切なさに圧倒されていた時間だった。
第三話
これも専業主婦のYさんから聞いたお話。
夫も子どもも出払った午前中、いつもの通り一気に家事をすませ、いつもの通りコーヒーで一息ついた。毎日の日課を次々とこなして今日も無事に終わる、という日々をYさんは愛していた。
昨日までホットで飲んでいたコーヒーを今日はアイスにする。そろそろ冷房の季節になった。Yさんは半袖から突き出るわが腕を見て、『若い頃はこの時期から脱毛に気を遣っていたっけ』、と思い出す。
もう何年も腕の毛なんて剃っていない・・・ちっとも気にならなくなった・・・
自嘲気味に、年齢相応にたくましくなった腕を見つめていた、ちょうどその時!はっきりと、なにか手のひらのような感触が、腕の表面を、ゆっくり、すーっと撫でて行ったのがわかった。
ぞくり。
鳥肌が立ったのは、触られた感触のせいか、感触が正体不明のせいか、判断がつかない。しかしはっきりと、腕にはなにかの感触が残っている。
気のせいじゃない。断じて気のせいじゃない。Yさんは「うっかり」とか「気のせい」というものが嫌いで認めなかった。
誰かが触れたことには確信があった。しかし、この部屋に自分を触る何物もいないことも、確実だった。白黒つけたがりのYさんには苦しい状況となった。
ぞくり。
まただ、また来た。のぞむところだ! ・・・正体不明の出来事を、怖いとかなぜとか感じる前に、Yさんが思ったのは(あれは気のせいなどではない!)というものだった。なので、Yさんは五感を澄ませた。
『ほら、なにかが触っているよね、うん、触っている、触っている、肘から手先の方に向かって、右腕をなにかがすべるように撫でて行っている。今、ここ、でだ!』
そして同時進行で、Yさんは両目を見開いた。自分の右腕を見つめる。
『ほら、さっきと一緒、さっきもこうだった、確かにだれもここにはいない。確かにだれの姿もない』
なにかが私の腕を触った。「なにか」は姿を持っていない。そしてわたしはおかしくない。Yさんがこの話を人にするのは、これが初めてとのことだ。
「聞いても、だからなに? としか言えない話でしょ、これ」とのことだった。
(アトラスラジオ・リスナー投稿 匿名さん ミステリーニュースステーションATLAS編集部)