3つの点があると人の顔のように見える「シミュラクラ現象」はご存じの人も多いだろう。では、「パレイドリア pareidolia」というのを聞いたことがあるだろうか。
これは、雲の中に人の形が見える、岩の凹凸が動物に見えるなど、抽象的なパターンで意味のある形を知覚する脳の働きだ。車の正面や焦げたトーストなどを見ると、人の顔のような模様に気づくことがある。
このことは特に「顔パレイドリア」と呼ばれ、脳の顔検出システムによって起こる錯覚である。しかし、これは人間の心の働きを理解するのに役立つ錯覚である。最近の研究では、子どもを持つことが脳のこうした側面に影響を与える可能性があると主張されている。
多くの研究では、ホルモン値の劇的な変化が結果に影響を与えることを懸念して、妊婦を被験から除外している。しかし、オーストラリアのクイーンズランド大学の研究者たちは、これらのホルモン変化が興味深い洞察を与えてくれるものであることに気が付いた。
最近になり、出産した女性は妊娠中の女性よりも顔のような模様を認識する可能性が高いということがわかった。オキシトシンというホルモンの濃度が変化していることが原因である可能性があるという。人は生まれた時から顔あるいは顔っぽいパターンに対して敏感になるように進化してきた。これはおそらく、顔への注意が社会的交流を果たす根底にあり、安全を保つのに役立つためであると考えられる。
脳内の化学伝達物質が、社会的相互作用に関与していることはよく知られている。例えば、オキシトシンは社会的な絆や生殖との関連性から、しばしば「愛のホルモン」と呼ばれている。研究によると、人工的にオキシトシンの濃度を上げると、顔の目の部分を見る時間が長くなり、さらに肯定的な表情の認識力が高まるという。
オキシトシンの濃度は、妊娠中や出産後に変化する。妊娠期と産後の様々な段階の女性を比較した研究では、オキシトシンやその他のホルモンのレベルが劇的に異なることがわかっている。オーストラリアの研究者たちは、オキシトシンの濃度と顔のようなパターンの認識が関連しているかを調べることにしたのだ。
実験では、妊娠している女性と、過去12ヶ月間に出産した女性の2グループが比較され、被験者全員に「人間の顔」「普通の物体」「錯覚により顔のようにみえるもの」の3種類の画像を見せて、顔に見えるか見えないかを11段階で反応するよう求めた。その結果、産後の女性は妊娠中の女性と比較して、錯覚の顔の画像でより多く”顔に見えた”と報告したというのだ。
研究者たちは、顔パレイドリアのレベルに対する女性の感受性は、親としての初期段階で高くなる可能性があり、母親とその乳児にとって明らかに重要な社会的絆を促進する可能性があると結論付けた。そして、この感受性の増加は産後数ヶ月間のオキシトシン濃度の上昇によって引き起こされるという。
ただし、妊娠中の女性と産後の女性では、不安、ストレス、疲労の程度が異なる可能性があり、すべてが課題の遂行に影響を与えるとも考えられるため、オキシトシン濃度による比較はまだまだ明確に支持されていない。他の研究では、妊娠中と産後に濃度変化は見られないといったものもあるのだ。
予備的な研究として、今回の発見は確かに興味深いものである。顔のようなパターンに対する感受性が生涯を通じて変化し、基礎にあるホルモンレベルによっても決定される場合、顔パレイドリアを測定することは、精神衛生上の問題の根底にあるより複雑な内部変化を観察するための有用なツールとなるかもしれない。
(にぅま 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
Thomas BudachによるPixabayからの画像