画像『南太平洋の若大将 』
加山雄三主演の映画『若大将』シリーズにおける青大将役、テレビドラマ『北の国から』で主人公黒板五郎役を演じたことで、国民的俳優と称されるほどの知名度を誇った人物と言えば田中邦衛(くにえ)だ。
短期大学在学中に演劇へ興味を持つようになり、俳優座養成所の試験を受けるも2度不合格、中学の代用教員を経て1955年に3度目で合格を果たした。
若大将シリーズにおいては、主役を食うほどの人気があったとも言われており、1961年の『大学の若大将』以降、高倉健と共演した『網走番外地』シリーズや、『仁義なき戦い』シリーズの脇役を通し人気を獲得し、そして『北の国から』によって個性派俳優の地位を不動のものとした。
さらに1974年8月3日に公開された実写映画『ルパン三世 念力珍作戦』では次元大介役を演じたこともある。また、漫画『ONE PIECE』に登場するボルサリーノ(通称「黄猿」)のモデルとなったのは田中である。
とはいえ、田中にはいわゆる昭和の大御所俳優などによく見られるような豪快な逸話がほぼ見られない。
俳優座に入ってからも長らく裏方を兼務していた彼の生活は非常に苦しいものであり、実家から送ってもらった陶器を売って生活費を稼いでいたという。当時、加山雄三が田中の部屋に泊まると言って訪れた時、部屋を覗いた途端に帰ってしまったというエピソードもある。
彼のその生活は、後年になってもきわめて地味なものであったと言われている。
酒は一滴も口にせず、ギャンブルにも手を出すことも無く、一方で「俳優は肉体労働者」との認識から筋トレを欠かさなかったという。「北の国から」で主演を務めるようになって以降も驕る様子が全く見られず、一般客から話しかけられても嫌な顔一つせず会話に応じていたそうだ。
彼については、意外なエピソードが秘話として残っているという。
ビートたけしによると、自身がかつてラジオ番組の中で「いくら高倉健でも漫才はできないだろう。俺は役者も漫才もできる」と発言したことがあり、そのことを耳にした高倉健が田中邦衛へ連絡し、「漫才やんないか?」と声をかけたというのである。
あくる日、喫茶店で待ち合わせをした両者であるが、「高倉健です。田中邦衛です。…そのあとどうしよう?」とネタ合わせしようにもネタができず、さらにお互いが無口であったこともありほとんどしゃべらず、2時間ほどコーヒーを飲むだけで終わってしまったという。
この話は、後年双方から聞かされていたらしく、2016年3月27日に開催された「2016年WONDAブランド戦略発表会」にて亡くなった高倉健との思い出を語る場面の際、「『やっぱりたけしの言うとおりだな』と言ってた」ということでビートたけしが発言をしており、2021年4月3日に放送された「新・情報7daysニュースキャスター」では亡くなった田中邦衛のエピソードとして、「『健さんホントにやる気になってた、でも全然できなかった』と邦衛さんが俺に言った」とビートたけしが振り返っている。
因みに、横浜市内にある彼の自宅近くのバッティングセンターには、『ホームラン賞』の名札に「田中邦衛」の名前が残されていた。これは当時、地元の子供たちの間で話題となり、ある子供が店員へ聞いたところ間違いなく本人であるということが判明したという。
田中邦衛が親しまれてきたのは、役柄やプライベート問わず、こうしたどこか朗らかな一面によるところが大きかったのは確かだろう。
【参考記事・文献】
田中邦衛さん逝く──『北の国から』トンデモ裏設定と地元で愛された“五郎さん”ほのぼの伝説
https://www.cyzo.com/2021/04/post_273716_entry.html
秘蔵写真を公開…実弟が明かす田中邦衛の「知られざる実像」と「晩年の姿」
https://gendai.media/articles/-/126339?imp=0
ビートたけしが高倉健さん田中邦衛さんの秘話明かす
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202104030001430.html
ビートたけし、高倉健と田中邦衛の“コンビ漫才挑戦秘話”を明かす
https://www.cinemacafe.net/article/2016/03/27/39162.html
(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)