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東北で広く祀られる「オシラサマ」とはどのような信仰か

オシラサマは、岩手県をはじめとした東北地方で現在も見られる民間信仰の一つ、そして屋敷神である。柳田國男の『遠野物語』で広く知られるようになったこの信仰は、「オクンナイサマ」「オシンメサマ」などの別名で各所に広く見られている。しかし、その一方で今もなお多くの謎に包まれている神でもある。

オシラサマは旧家ごとに古くから代々祀られており、そのため各所ごとに細かい部分で作法の差異が見受けられることが多い。基本的な形式は次の通り。ご神体は通常、桑の木で作られたこけしのようなもので、男女の二柱一組で祀られる。顔は墨で書かれたり、彫られたりして描かれるが、男の方は特に馬の顔で描かれることが多い。それぞれ「オセンダク」と呼ばれる布で何重にも重ね着され、顔以外の部分がスッポリと覆い隠される状態になる。

オシラサマは、通常の神棚とは別の祭壇が用意されるという。そして、年に二度ほど「命日」と呼ばれる日にイタコなどの巫女が訪れ、オシラサマを両手に持ち宙に舞わせながらオシラ祭文が読み上げられる。これは「オシラアソバセ」と呼ばれてる神事であり、これによってオシラサマに神を降ろして村や各家別の占いが行なわれるという。

男側が馬の顔で描かれているのは、次のような昔話に由来していると言われている。あるところに長者の娘がいた。彼女は家で飼っていた馬と恋仲となっていたが、それを知った長者は怒り馬を殺しその皮を剥いで晒した。娘は大変に悲しみ、晒された皮のそばで念仏を唱え弔った。するとその皮が突如として娘を包み込み、そのまま天へと昇っていった。驚いた長者が途方に暮れていると、桑の木から黒い虫と白い虫が現れ、長者はこの虫が馬と娘であると悟って桑の葉を食べさせながら育てていき、その虫は蚕となったという。

この昔話は、いわゆる養蚕の始まりを綴った物語であり、ストーリーそのものは、中国で4世紀ごろに成立した『捜神記』に収録されている「馬の恋」という話を元にした内容であると言われている。この昔話は、オシラサマの男側が馬の顔で描かれる由来ともされ、それと同時にオシラサマがもともと蚕の神として祀られていた信仰であるとも考えられた。なお、オシラアソバセの際に読み上げられるオシラ祭文の内容は、この馬と娘のいわゆる「異類婚姻譚」となっている。




さて、信仰ともなるとそれには禁忌(タブー)が付き物だであり、オシラサマも例外ではない。その内容は二足、四足の動物や鶏卵をオシラサマが嫌うために食してはいけないというもの、そして一度オシラサマを祀ったら生涯に渡って祀り続けなければならないということである。もし祀り方が粗雑であった場合、家を祟るとも言われているのである。祀り続けなければ祟られるというこの性質は、その家から居なくなると没落してしまうというザシキワラシの性質によく似ている。

また、食の禁忌については、同様の制限がある修験道に由来している可能性が高い。興味深いことに、古いオシラサマのスケッチでは、その着せられた布が細かく裂かれており、それが修験者の使うボンテンいわゆる御幣に酷似しているというのである。御幣やボンテンは、神の依代すなわち神の依り憑く呪具であることから、オシラアソバセにおける神降ろしに通じたのではないかとも言えるだろう。

また、先述の通りオシラサマは、その由来となった昔話から、本来蚕の神として祀られているはずであるが、実際には蚕の神に限らず目の神、農業の神など個々別々な神として祀られている。祀る家ごとに異なっていると言っても良いだろう。ボンテンや御幣のような神の依代に基づいた性質が、各家ごとに祈り願う神を多様なものにしたため、オシラサマのこのような変容を生み出したとも考えられる。

因みに、オシラサマの名前の由来についても諸説ある。1762年に著された『遠野古事記』に、「しあらというものを小箱からとりだし祈祷云々」とあり、この「しあら」が転じてオシラの語になったという説もある。その他には、オシラ祭文と全く同じ祭文を持つ愛知県の奥三河の神楽歌が存在しており、その地ではかつて白山(しらやま)と呼ばれる小屋のようなものが作られ、この中で浄土入りした老人が浄められ生まれ出てくるという疑似再生儀礼がおこなわれていたという。

オシラ祭文にある馬と娘の話が山岳信仰を通じて奥三河から東北へ伝わり、それと同時にこの白山行事の名から「おしら」という名前となってオシラサマが形成されたのではないかとも言えるだろう。オシラサマのルーツは修験道にあるのかもしれない。

【参考記事・文献】
山口敏太郎『とうほく妖怪図鑑』
水木しげる『カラー草紙 妖怪・土俗神』
内藤正敏『民俗の発見1 東北の聖と賤』

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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