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無断で続編制作は愛するがゆえか?「タイ版ウルトラマン」の著作権問題

画像『ウルトラマン ニュージェネレーション英雄伝

ファンの手によって人気作品の続編が創作されるという現象は、これまでいくつも確認されており、テレビアニメ『ドラゴンボールGT』の続編ではないかと噂されていた『ドラゴンボールAF』がその代表的な例であろう。

ただし冒頭にも述べた通りこれはあくまでファンによる”二次創作”であり、商業作品として存在しているわけではない。だが中には、制作元が全く知らないまま、商業作品として勝手に制作されていた作品もあった。その作品とは、かの円谷プロ制作の特撮作品『ウルトラマン』である。

1963年、映像制作会社チャイヨー・プロダクションは実業家ソムポート・セーンドゥアンチャーイによってタイに創立された。彼は、会社を興す上で映画産業の勉強のために日本へ留学し、東宝で研修を受け、円谷英二に師事した。彼はそこで得たノウハウを駆使し、自身の会社で映画やテレビ番組を制作していった。

1973年にはタイ初の本格的な特撮映画『ターティエン』を制作し、翌年1974年には円谷プロとの合作映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(原題『ハヌマーンと7人のウルトラマン』)が制作され、のち1979年には日本でも公開されている。

きっかけとなったのは1976年、当時の円谷プロ社長円谷皐(のぼる)とソムポートが、日本以外のウルトラシリーズの使用権、通称「76年契約書」と呼ばれるこの契約を締結し、チャイヨーは東南アジアで円谷作品を使用したビジネスを始めた。

1995年、円谷皐の死去が契機となったのか、先に交わした契約書を根拠として、「ウルトラマンの海外展開権はチャイヨーにある」と突如主張し出し、この頃からチャイヨーと円谷プロとの係争が始まることとなった。




90年代後半になると、チャイヨーは主にタイ国内でウルトラシリーズの関連事業を展開し、2006年にはチャイヨー制作の”新作ウルトラマン”が中国で放送されるとプレスリリースされるに至った。同年には、日本円でおよそ33億円ともなる大金をかけ、ウルトラマン博物館なる施設の開業にも着手していたという。

95年から幾年にも渡り、両者の間では著作権や制作権の訴訟が争われてきたが、2008年にはタイの最高裁において件の「76年契約書」が偽造であると認定され、チャイヨー側の主張は退けられることとなった。こうした裁判の影響もあり、タイ版の新作ウルトラマンの制作は中止となり幻の作品となった。

なお、2006年にはチャイヨー側が円谷側を相手に損害賠償訴訟を起こしており、円谷側が賠償金を支払う判決が下されたもののこれを控訴、2010年ごろには円谷側の勝利となり、これで他の作品ともども円谷プロへの著作権帰属が認められることになった。その後チャイヨーは2011年にタイの大洪水の被害を受けて倒産、2021年にはソムポートが亡くなった。

この一連の出来事は、タイにおけるウルトラマンに対する人気を物語る事例として語られることもあるが、ことはそう単純な話ではなかったようだ。

実は、1974年に日本で公開された仮面ライダーXの劇場版『五人ライダー対キングダーク』の配給権を買い付けたチャイヨーが、円谷プロと共同制作した『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』に登場する「ハマヌーン」(インド神話の白い猿神)を、仮面ライダーと共演しているような形で新たな撮影映像をつぎ足しした形で公開、東映から提訴されあっけなく敗訴することとなった。

チャイヨーという言葉はタイ語で「万歳」「乾杯」を意味するというが、その名を象徴するような事業とは程遠かったようである。

【参考記事・文献】
山口敏太郎『マンガ・アニメ都市伝説』
チャイヨー
https://x.gd/IYguq
海外ウルトラシリーズ
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/11849.html

【アトラスラジオ関連動画】

(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)