画像『うしおととら(1)』
『うしおととら』は、1990年から96年まで週刊少年サンデーに連載されていた妖怪アクション漫画である。漫画家藤田和日郎(ふじたかずひろ)の連載デビュー作であり、主人公の蒼月潮(あおつきうしお)と金色の大妖とらが織りなす、妖怪たちとの戦いと出遭いを描いた作品であり、少年漫画の最高傑作と名高く現在も根強い人気を誇っている。
本作は妖怪を題材としているためか、随所にそういったモチーフが見受けられる。例えば、人気投票においても連続して1位を獲得し第二の主人公として人気を誇る大妖怪「とら」にはモデルがいると言われている。
本作最強の妖怪、最後の敵として登場する「白面の者」は、とらとの関係にとって欠くことのできない物語の重要な存在となっているが、そのモチーフは九尾の狐となっている。九尾の狐と言えば、中国やインドそして日本をまたいで登場する伝説の悪狐(あっこ)としてお馴染みである。
紀元前322~185年ごろに栄えた南天竺のマガダ国の王子:斑足太子(はんぞくたいし)は、華陽夫人を妃として迎えた。華陽夫人の正体は九尾の狐であったというのだが、一方の斑足太子は母親がトラであったと言われており、王とトラとの間に生まれ、足に斑点があったことから斑足太子という名が付けられたという。
のちに王となった斑足太子は、人肉を好み残虐非道な行ないを繰り返した末に追放されたという。うしおと出会う前のとらは他の妖怪も恐れるほどに残忍で凶暴であったということも含め、トラという共通項を持つ斑足太子がとらのモチーフになったのではないかと言われている。作中に描かれる、とらの起源となったシャガクシャという英雄の話の舞台が、古代インドであることも注目に値するだろう。
もう一つ、とらのモチーフとされているのが「鵺」である。鵺は猿の頭、虎の四肢、狸の胴体、蛇の尾を持つキマイラとして知られているが、翼を持たずに空を飛ぶことができる存在として、また飛び回る際に雷が鳴ることから「雷獣」ともされていたという。
とらはかつて、山一つ二つを一瞬で飛び越えることから「長飛丸」(ながとびまる)とも称され、また雷獣という異名も持っていたことが鵺と重なる。何より、鵺のイメージには、異説として虎の胴体であったというものもあり共通する部分が多い。とらが鵺であるという言及は作中一切なされていないが、妖怪を扱った本作において鵺が全く登場していないことから、とらこそが鵺なのではないかという考察もなされている。
また、本作は他の作品からの影響も垣間見られる。妖怪「かまいたち」の一般的なイメージといえば、つむじ風に乗って現れ、人を転ばせ、斬りつけ、痛みに気づかれないよう薬を塗るといった3匹が一体となった妖怪として知られる。題材として扱った作品によって設定はさまざまにアレンジされており、『ゲゲゲの鬼太郎』などでは一体の妖怪となっている場合もある。
うしおととらでは、雷信、十郎、かがりという「東の鎌鼬(かまいたち)三兄妹」として登場するのだが、かまいたち三兄弟という名称と言えば、アニメ『ドロロンえん魔くん』でも登場している。えん魔くんに登場するかまいたち三兄弟は、人間の魂を狙うという攻撃的な妖怪として描かれているが、うしおととらに登場する三兄妹は、共に人間を憎む存在として、特に二男の十郎が人間に対し殺戮を行なう凶悪な存在として描かれている。
3種の役割を持った兄弟かつ人間に対して攻撃的な立場となっている設定は意外と珍しく、その意味で両作には通じるものがあるように思える。因みに『地獄先生ぬ~べ~』では、父・母・子の親子としてかまいたちが登場するが、子を奪われて狂暴化した両親が無差別に人を襲う以外は、子を返したことで円満にことはおさまっている。
うしおととらは、その緻密な構成によって伏線も見事に回収され、終盤を迎えるにつれて天井知らずの盛り上がりを見せた作品として今なお高く評価されている。時に衝突を交えながらも息の合った名コンビぶりを発揮するうしおととらであるが、そのコンビの名を略称した「うしとら」すなわち忌み嫌われる鬼門としての存在ともなる彼らが、幾多の戦いや出遭いを経るごとに、人間・妖怪双方の「希望」となっていくその様は、なんとも感慨深い。
【参考記事・文献】
鎌鼬(かまいたち)とはどんな妖怪?3匹で役割がある?鬼太郎での登場の仕方は?
https://uidhibiasudhiu.com/yokai-kamaitachi-sanbiki/#%E5%A6%96%E6%80%AA%E3%83%BB%E9%8E%8C%E9%BC%AC%E3%81%AE%E5%90%8D%E5%89%8D%E3%81%AE%E7%94%B1%E6%9D%A5
インドでは華陽夫人となった玉藻前。「うしおととら」のとらのモデルは斑足太子?!ーインド華陽夫人編ー
https://anispika.com/kayo-hujin/
うしおととらの「とら」の正体は人間?封印されていた秘密と理由を考察
https://bibi-star.jp/posts/497
(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)