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打撃の神様・川上哲治が自ら語った「球が止まって見えた」伝説

「プロ野球界の生き神様」「打撃の神様」とまで呼ばれた巨人軍の元プロ野球選手川上哲治(てつはる:現役時代は「てんじ」)は、その卓越した打撃技術にプロ野球史上初めての2000本安打の達成など、戦時中から戦後におけるスタートして大活躍した人物である。

彼にまつわる最もよく知られるエピソードと言えば、「ボールが止まって見えた」がある。

巨人が戦後の初優勝を飾った翌年の1950年、体制が三原修監督から水原茂監督へ変わった。1949年のシーズン終了後に、反三原派の選手たちが決起し、水原を擁立しようとした排斥騒動が発生した。川上は「優勝した監督を変えるのはおかしい」として三原を擁護するも、これにより水原と川上の関係は冷え込んだ。これに加えて、川上は当時スランプに陥っていたことも災いして、守備や走りを水原から叱られることが多くなり、そのたびに自身も反発するなど悪循環が生まれていった。

この状況に堪りかねてなんとか脱却を図ろうとした川上は、同年の夏、休日を利用して個人練習に取り組むことにした。二軍の選手に打撃投手とボール拾いを頼んで、多摩川のグラウンドで徹底的に打ち込みを行なった。

ひたすら打ち込みを続けていた川上は時間が経つのも忘れ、そのうち、ボールがミートポイントで“止まった”ように見えた。この時になって、川上は打つべきタイミングがピタッとハマったとき、その動いているはずの球が止まって見えるという境地に達したという。

そこからは、すべての球が同じ空間で止まりそれを打つ、の繰り返しであったという。ヘトヘトになった打撃投手から「もう勘弁して下さい」という声がかかり、川上はようやく我に戻ったという。


この「止まって見えた」という現象は、現在においては「ゾーンに入る」という言葉で表現されており、多くのスポーツ選手やアスリートなどが同様の体験をしていると言われている。「ゾーンに入る」とは、究極の集中力状態において高いパフォーマンスを発揮するということを言い、心理学や神経学でも研究がなされている。川上のこのエピソードは、ゾーンに入ったことの一例として捉えられることが多い。

また、これとは別の理由もあげられている。

“止まって見えた球”が投げられた直後に、運よく同じ軌道の投球があったことで、球の軌道予測に余計な計算が入り込まず余裕を持って迎えることができ、この時に球が止まって見えたのではないかと考えられる。要するに、すでに答えが全てわかっているテストを解いている状態とも言えるだろう。もちろん、これには動体視力や瞬間視がある程度優れていないことには達し得ないことではある。

前述の通り、現在は一種の学問的アプローチから説明されることもある川上の逸話であるが、プロ野球選手の逸話にはこれ以外にも不思議な体験談が多い。落合博満は、自分の思い描いた球が飛び込んでくる状態を何度か経験していたと証言しており、また内川聖一は、初の首位打者を獲得した2008年に「球がサッカーボールぐらいに大きく見えた」感覚を体験、さらに柳田真宏は、「球の縫い目が見えた」という。

投手では、江夏豊が全盛期時代、右打者との対決の際「キラキラと光った空気」を見ることがあり、その光を目掛けて投げるとほぼ確実に抑えることができたという。

【参考記事・文献】
王貞治、江夏豊が語っていた…往年の名選手の信じられない“超人的感覚”
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/05031100/?all=1
「ボールが止まって見える」…
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/415385/
川上哲治「“打撃の神様”が『ボールが止まって見える』まで」/プロ野球20世紀の男たち
https://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=097-20190914-10
一流選手はなぜボールが「止まって」見えるのか
https://toyokeizai.net/articles/-/721295
ボールが止まって見える。バッターが投手の投げたボールを捉える原理
https://takaraminoru.com/1398.html

(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用

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