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並外れた回復力を持つ生物「クマムシ」は月を植民地化できるか?

アポロ計画が最盛期を迎えていた頃、月の植民地化というアイデアはそれほど突飛なものではなかった。最初に飛行機が発明されてからわずか70年で、突然、月に人を送ることができたのだ。しかし、その後、月への関心はやや薄れていった・・・

NASAの目的も変わり、月への入植は相変わらず遠いことのように思われた。が、事故が起きた!

2019年2月、イスラエルが製作したベレシートと呼ばれる無人探査機が、民間宇宙船として初めて月面軟着陸を目指した。だが当初からトラブルが発生。シャトルの周囲を撮影し、方向を調整するためのカメラが故障した。

予算上の制約から、他にもいくつかの制限が課せられ、それが重なって着陸当日は大惨事となった。シャトルは減速することができず、時速500キロで月に衝突した。この衝撃で探査機の部品は100メートル以上にわたって散乱した。

しかし、シャトルは空っぽではなかった。

地球上で最も回復力のある生物であるクマムシを含む、いくつかの”乗組員”を積んでいた。『The Conversation』誌の記事では、ローラン・パルカは「これらのクマムシが何らかの方法で生き残り、繁殖を始めたのではないか」と問いかけている。




【それはまるで弾丸のようにタフ】

クマムシは水グマと呼ばれる微小動物である。顕微鏡で見ると、足が8本あることを除けば、クマに少し似ている。クマムシには神経系があり、口と2つの目がある。通常、水生環境を好み、地球上のほぼすべての場所に生息している。

クマムシがこれほど広く生息している理由のひとつは、信じられないほど回復力があるからだ。

クマムシの回復力の高さをご存じない方は、ご安心を。クマムシは高さ6000メートル、深さ5000メートルまで生き延びることができる。氷点下や灼熱の環境でも生きられる。ストレスがかかると99.9%の代謝を停止し、一種の冬眠状態に入ることができる。隕石の衝突やガンマ線バーストのような大量絶滅イベントにも耐えられると考えられている。

実はクマムシは、極限環境で繁殖する生物いわゆる「極限環境生物」とはみなされていない。なぜならクマムシが極限環境を好んでいるわけではないからだ。それでも、もし月で生き延びられる生物がいるとすれば、それはクマムシに違いない。

【クマムシは月面衝突を生き延びた?!】

実験室内での実験によると、真空中で時速3000kmの衝撃を受けるとクマムシは死滅する。しかし、時速2600km以下であれば生き残ることができる。月面衝突はそれよりもはるかに遅い速度であり、真空中ではなかったとはいえ、衝撃に耐えた可能性は十分にある。

放射線はほとんどの生物を殺すが、クマムシは違う。実験によれば、クマムシは1000~4400グレイ(Gy)の高線量ガンマ線に耐えることができる。月面でクマムシが浴びるガンマ線はその数分の一(年間約0.1Gy)である。そのため、放射線はクマムシを殺すこともない。

温度も大きな問題だ。月には大気がないため、月の温度は夜間の-170℃から日中の120℃まで激しく変化する。クマムシはこの極端な変化に耐えられるかもしれないが、長期的な影響は明らかではない。

しかし最大の問題は、酸素と水がないことだ。このため、クマムシは月面で再活性化して繁殖することはできないと考えられている。

【クマムシは月を植民地にしていない】

クマムシは代謝を停止すると、体内の水分の約95%を失う。この過程で、クマムシの体は通常の約半分の大きさまで縮小する。クリプトビオシスと呼ばれるこの状態は長く続くが、再活性化するためには水と酸素が必要だ。水と酸素と食べ物がなければ、通常の姿に戻ることはできない。また、できたとしても、クマムシの卵は放射線に耐えることができない。

つまり、月面に活動しないクマムシがいたとしても、彼らが実際に衛星を植民地にできる可能性は限りなくゼロに近い。

ただし、これは倫理的に重要な問題を提起している。月面に微生物がいるかどうかはわからないが、それとは関係なく、私たちが地球から送った生命体で月面を汚染しているかもしれないという事実は重大な懸念となる。

これまでは、宇宙探査といえば、観測と現地に赴くことが中心だった。しかし今、私たちは自分たちの行動がもたらす結果についても考え始める必要がある。火星やエウロパのような場所で生命の兆候を探しているミッションも、汚染のリスクを減らすために真剣に取り組んでいる。月にクマムシが流出するという今回の事故は、宇宙探査のユニークな側面を浮き彫りにしている。

興味深いことに、現在の国際宇宙法では、月にクマムシを流出させることは違法ではない。この事件は、惑星保護という広範な文脈における特異なケーススタディとして機能している。国際宇宙法の基本的枠組みを提供する宇宙条約は、地球外から天体や地球への有害な汚染を避けることの重要性を強調している。

しかし、具体的に何が「有害な汚染」にあたるかは解釈の分かれるところである。クマムシの場合は、クリプトビオシス状態にあり、したがって活発に繁殖したり拡散したりしない生物であるため、奇妙なグレーゾーンに入るが、厳密には違法ではない。仮に違法であったとしても、それを取り締まる国際機関は存在しない。

宇宙への進出がさらに進めば進むほど、地球外環境の保全を保証する包括的なガイドラインの必要性はますます重要になってくる。月に生息するクマムシのケースは、私たちの惑星だけでなく、その外側の管理者としての私たちの責任を思い起こさせるものである。

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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