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明治の文豪「夏目漱石」は夢日記を実践していたのか?

「こんな夢を見た」。このようなフレーズで始まるといえば、夏目漱石の短編小説『夢十夜』(1908)だ。タイトルの通り、10篇の奇妙で不思議な夢の話を語るその作品は、幻想文学の代表的作品ともされ黒澤明監督の映画「夢」にも影響を与えたと言われている。小説とされてはいるが、実は夏目漱石による夢日記だったのではないかとも言われている。

夢日記といえば、睡眠中に見た夢を記録する日記のことであり、たびたび「危険」な行動であると言われている。夢日記は、夢と現実の区別がつかなくなってしまうとされており、中には夢で見た見知らぬ人物が現実に現れてしまうという都市伝説まで存在する。

ただし、無暗に夢日記を行なうことが心身の負担になることは確かであるらしい。夢は、記憶の整理や定着などを行なっているとされているが、夢を記録する行為はその整理を妨害することとなり、脳に負担をかけるのだという。中には、夢日記をつけなければならないということを義務的に行なうと、通常の起床前の目覚めであっても目が覚めてしまい、疲労がたまってしまうという声も聞かれる。


こうしたこともあり、夢日記はたびたび「精神を崩壊させる」といった言説がたびたびなされているのである。

夏目漱石は幼い頃から病弱で、虫垂炎、腹膜炎、糖尿病など多くの病に悩まされ、最終的に命を奪った胃潰瘍は5回も再発していた。そして、イギリス留学をした際は神経衰弱になったとして急遽帰国を命じられた。同時代の精神科医呉秀三は、妄想型統合失調症と診断したという。

統合失調症は、幻覚や妄想といった症状がよく知られ、「相手に自分の思考が筒抜けになっている」「自分は誰かの意志で操られている」といった証言が特徴である。いかなる社会においても人口の1%は有していると言われる統合失調症であるが、たびたび「天才と呼ばれた創造的な人々も患っていた」と言われている。

あくまで一説であり彼らの生涯の生活から推測された判断ではあるが、ワーグナー、カフカ、ヴィトゲンシュタインなどの名前がよく挙げられる中で、夏目漱石も含まれることが多いのである。

『吾輩は猫である』『坊ちゃん』といった彼の数々の名作はよく知られるところではあるが、これらの小説は全て「発狂」が報告された留学よりあとに書かれたものである。『吾輩は猫である』は猫の視点から人間を批判し風刺した作品として知られているが、猫の目線という着想は、そうした幻覚・妄想的なものから得られて描かれたのではないかとさえ言われている。




実は、創造性豊かな人の脳と統合失調症の人の脳は、同じような仕組みになっているというのだ。大量の情報を取り込む一方で、雑音となる情報を排除できない。このため、収拾がつかなくなり事象の奇妙な関連付けがなされるというのだ。また、創造には一種の快楽が伴うとも言われている。幻覚や妄想は、彼らが漠然とした恐怖や危機から回避し安堵するための手段のようにはたらいている可能性はあるだろう。

夏目漱石の夢十夜は、その内容が奇抜であり不気味な雰囲気を醸し出している。この作品が実際に夏目漱石が夢日記を実践したことで描かれたかは定かではないが、少なくとも彼が精神を病んだ経緯から見れば、夢日記が原因で精神を患ったということは考えにくい。

だが、その2年後には胃潰瘍により入院し800ccもの吐血をしたと言われている。過剰なストレスも当然あったであろうが、もしも夢日記の実践がこうした急変に関わっているのだとするならば、非常に恐ろしいことではないだろうか。画家サルバドール・ダリは見た夢を絵画におこしシュルレアシスムを形成した言われているが、夏目漱石が同様に夢を作品に落とし込んでいたのだとすれば、それは文芸分野の拡張としてでなく、自己の救済(安心)のための手段として行なわれていた可能性はあるだろう。

【参考記事・文献】
創造性の「暗黒面」 抑鬱や狂気が天才を生み出す?
https://www.cnn.co.jp/fringe/35044129.html
夏目漱石の病気・神経症の症状が壮絶!死因は何だったの?
https://anincline.com/natsume-soseki-2/
夏目漱石の死因は?原因はピーナッツ?病歴や最後の様子も解説
https://rekisiru.com/16816
なぜ夢日記は危険なのか?夢日記の書き方や危険な理由など解説。
https://mysterya.jp/yumenikki/

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用