美女に化けて国を滅亡に導く強力な悪狐「九尾の狐」伝説

尻尾が九本に割れており様々な妖術を使うことで恐れられた悪狐(あっこ)「九尾の狐」は、中国、インドそして日本をまたいで様々な伝説が残されている。

中国では、良い未来が到来することの前兆として現れる動物「瑞獣」(ずいじゅう)として解釈される場合もあるが、伝説では、その国を滅亡に導く恐るべき存在として語られることで知られている。

紀元前11世紀、中国の古代王朝殷(いん)の最後の王となった紂(ちゅう)王は、自身が優秀すぎるあまりか次第に暴君となっていった。その矢先、妲己(だっき)という美女に出会って以降彼女の虜となり、彼女の誘惑によって紂王は酒池肉林に溺れ、果ては銅製の柱に油を塗って火で熱しその上を罪人に歩かせて鑑賞するという「炮烙(ほうらく)の刑」が編み出されるなど堕落の一途を辿った。


こうしたことから失望する臣下たちが増え、紂王らは追い込まれついには焼身自殺し殷王朝は滅亡したという。この紂王をたぶらかした妲己は、九尾の狐が化けた美女であったと言われている。

このように悪狐によって国を滅ぼされたという伝説は他にも、インドの王子班足太子(はんそくたいし:出展によっては「斑」の字になっている)の后・華陽夫人となって滅亡に導いたと言われ、そして753年には吉備真備(きびのまきび)に取り込み、遣唐使船に乗って日本に侵入したと言われている。

日本の地に着いた悪狐は数百年の潜伏を経て、平安時代に玉藻前(たまものまえ)という美女に姿をかえて鳥羽天皇の寵愛を受けることとなった。しかし、次第に天皇の体長が悪化し病に伏せるようになり、ついにその原因が玉藻前であること、そして正体が悪狐であることを陰陽師安倍泰成(やすなり)によって見破られ逃亡し、その後討伐軍の前に敗北して石に姿を変えたという。

三国に渡って国を滅亡に追い込んだ悪狐として描かれる九尾の狐であるが、インドについては妲己や玉藻前よりずっと後年に語られるようになった話であるとされており、また玉藻前の話についても、陰陽師安倍泰成という人物の実在は確認できず、実在した安倍泰親(やすちか)がモデルとなったとも言われている。




これらの伝説で語られる九尾の狐は、特に「白面金毛(はくめんこんもう)九尾の狐」と呼ばれる個体であるとされている。妖狐が強力な妖術を扱うという面から、妲己による傾国の話と結びついたものと考えられる。また、江戸時代の『玉藻の草子』では玉藻前が二尾の狐で描かれていることから、妲己伝説が混在した結果九尾の狐としての玉藻前伝承が再構築されたとも考えられるだろう。

因みに、九尾の狐に関わる伝承として、玉藻前の最後に語られる石の存在がある。この石は「那須の殺生石」と呼ばれ、石の吐き出す毒によって虫や動物が命を落とすと伝えられている。毒の正体は、付近の有毒性火山ガスによるものであるとされているが、石の毒については松尾芭蕉もその『奥の細道』で記している。

また、日蓮宗の開祖日蓮が、九尾の狐が復活をしようとした際に封印を試みたという伝説もあり、その法力によって割れたという奇石「数珠割の石」が今も栃木県の喰初寺(くいぞめじ)の境内に残るという。

古くから伝説の残る九尾の狐は、(玉藻前としてではあるが)酒呑童子や大嶽丸と並ぶ日本三大悪妖怪とまで称される存在となって語り継がれている。しかし2022年、この那須の殺生石が割れていることがSNS上で発信され大きく騒がれ、地元でも一大事として慰霊祭・平和祈願祭が行なわれるほどであった。

九尾の狐は、現在においてなお我々を恐れさせるリアルな存在なのだ。

【参考記事・文献】
山口敏太郎『怨霊と呪いの日本史』
「玉藻前(たまものまえ)」陰陽師に正体を暴かれた九尾の狐
https://waqwaq-j.com/japan/5315/#i-3
悪女「妲己」
https://rekishi-style.com/archives/11185
九尾の狐はインドにも 和漢百物語「華陽夫人(かようふじん)」
https://youkaiwikizukan.hatenablog.com/entry/2013/07/22/173951

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(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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