日本の100名城にも選定され、ユネスコ世界遺産にも登録されている、白鷺城の別名でも知られる兵庫県の姫路城。南北朝に築城されたこの城には、妖怪が住んでいると言われている。
その妖怪は「長壁姫」(おさかべひめ:単に「長壁」とも)と呼ばれ天守上層に隠れ住み、年に一度城主のみ対面が許されている以外は、そこに人が立ち入ることを嫌うという。
長壁姫は、江戸時代にはよく知られ、草双紙や錦絵、または歌舞伎の題材にもなっている。十二単姿の美女もしくは老婆として描かれることが多く、キツネが正体であるとも言われている。しかし、地元姫路においては神として祀られており、姫路城の大天守最上階にも社が設けられている。
そのような長壁姫の伝承の中に、剣豪として知られる宮本武蔵と対峙したというものがあるのだ。
時代は関ケ原の戦いが始まるより少し前のこと。姫路城の城主が木下家定であった頃、天守に妖怪が現れるとの噂が広まっており、夜の見張り番を恐れる者が多かった。当時、又三郎という名で城に仕えていた宮本武蔵は、自分がその妖怪を退治すると言って、ある夜に上階へ向かうこととなった。
明かりを持って天守に上り三階の階段に差し掛かったその時、突然炎が周囲を取り囲んだ。武蔵が切りかかろうと太刀に手をかけた途端に、その炎は消えてしまった。
最上階に到達し、武蔵は妖怪の正体を突き止めようとその場で待つと、どこからともなく女性の声が聞こえ、自身を長壁姫と名乗った。聞けば、武蔵が上階に上ってきたことで他の妖怪が逃げ出していったと言い、それを讃える印として名刀「郷義弘」(ごうのよしひろ)を武蔵に与えた。
しかし、これは木下家の家宝であり、長壁姫として化けたキツネが武蔵を城から追い出すための罠だったのだが、結局その目論見はうまくいかなかった。また、この武蔵と長壁姫の話には後日譚と呼ばれるものがあり、キツネがその後、中山金吾という少年に化けて武蔵に弟子入りをしたものの見破られて退治されたという。
姫路城に妖怪が棲みついているという話は、1677年に刊行された『諸国百物語』にすでに掲載されており、城主池田輝政の病気平癒の祈祷をおこなった高僧の前に見知らぬ女性が現れ、その女性がたちまち2丈(6メートル)もの鬼神の姿となり僧を殺したという祟り話や、姫路城に現れる怪火の正体を突き止めに行った若侍が、十二単の女性に出会ったという話が記されている。
長壁は、もともと姫路城が築かれた山の土地神であったとされている。それが姫路城の女性姿の妖怪話と結びついたことで「長壁姫」は誕生したのではないかと考えられている。そして、この名城に住まう妖怪のストーリーに対して、ヒーロー・宮本武蔵の存在が融合されたことによって形成された英雄譚が、武蔵と長壁姫の逸話ではないかと考えられるだろう。
【参考記事・文献】
・水木しげる
・其の壱 姫路城 なぜ妖怪伝説生まれた?
http://www.asahi.com/area/hyogo/articles/MTW20160106290690001.html
・刑部神社、姫路城天守にまつわる伝説とは?
https://nipponshiro-gimon.com/2018/08/30/post-512/
・第89回: 城と狐
https://www.hyogo-c.ed.jp/~rekihaku-bo/historystation/hiroba-column/column/column_1708.html
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(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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