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日露戦争で出征した軍隊狸「喜左衛門狸」伝説

神や妖怪が日本人の戦に交じり、日本を勝利に導くといった伝承は日本各地に存在しているという。中でも、軍隊狸(ぐんたいだぬき)という、人間に変身した狸が出征して日本軍に紛れ込み勝利に貢献するといった伝説は、四国の香川から愛媛にまたがって伝わっている。

喜左衛門(きざえもん)狸は、愛媛県西条市、鶴岡八幡宮の隣に建つ大気味(おおきみ)神社、この境内にある大樹に住んでいたと言われている化け狸である。喜左衛門狸のエピソードの一つに次のようなものがある。

ある時、屋島の禿狸と出会い、彼らはお互いに化け比べを始めた。先に動いた禿狸は自身が得意とする術によって、源平の壇ノ浦の合戦を再現したのだ。喜左衛門狸は驚き、禿狸から急かされたもののしばらく考え込み、数ヶ月待ってくれれば大名行列を見せると言って別れた。

言われた当日になると果たして大名行列が現れ、禿狸が感心して行列に近づいたが、護衛に危うく切られそうになり逃げ帰ったという。実は喜左衛門狸は、本物の大名行列が来ることをあらかじめわかっており、それを禿狸に見せたことでうまく騙したのだ。

そうした愛嬌のある喜左衛門狸であるが、なんと軍隊狸としてあの日露戦争に参戦していたという伝説があるのだ。日露戦争当時にロシアの軍人であったアレクセイ・クロパトキンがその手記に、「日本兵の中に赤い服を着た軍人がときどき混ざっており、その彼らをいくら撃っても弾がなかなか当たらず進んでくる」「撃つと光を放ち目がくらんでしまい、その赤い服には丸に“喜”と読める時の印が描かれていた」といった記述があったという。



このことにより、喜左衛門狸が小豆に化けて大陸に渡り、上陸した地で全軍に散っていき赤い服で戦ったのではないかと伝えられたのだ。ただし、クロパトキンの手記については実在が疑われている。

軍隊狸の都市伝説は、主に日露戦争のあとによく語られるようになったと言われている。また、日露戦争後に「伊予の肉弾連隊」と呼ばれ畏怖された歩兵第22連隊が愛媛で編成された歩兵連隊であったことから、地元の化け狸伝説と日露戦争の勝利が融合したことで、喜左衛門の日露戦争出征伝説が生まれたのではないかと考えられている。

因みに日露戦争にまつわる話には、日本兵が捕虜となったロシア軍から聞いたといわれる「白い軍服の兵士だけは撃っても倒れなかった」という話が民俗学者柳田國男の著作で紹介されている。日露戦争には、こうした人ならざる存在の参戦によって助けられた逸話が残っている。

この戦争での日本の勝利が、いかに日本人のプライドを高め、それと同時に人ならざる存在への尊重も強めたかというのは興味深い話である。

【参考記事・文献】
・大気味神社 喜左衛門狸
https://japanmystery.com/ehime/kizaemon.html
・【西条編】地域の力でよみがえった喜左衛門狸の伝説
https://www.iyoirc.jp/post_industrial/post_industrial-4892/

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(にぅま 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用