散歩や入浴の必要がなく、トイレのしつけが容易にでき、ご家庭の害虫駆除にも役立つというペットに最適な動物がかつて存在していた。その名もタスマニアセイウチモドキ(Tasmanian Mock Walrus)だ。
タスマニアセイウチモドキはセイウチ同様に口から突き出た長い牙とひげを生やし、体にはひだやしわが存在している。しかし体長は10センチ程度と非常に小さく、人間の手のひらに乗ってしまうほど。猫のように鳴き、4本の小さな前足で素早く動き回るとされていた。性格はハムスターに似て温和で、雑食でチーズやベジマイトが好物。またゴキブリを食べることもでき、タスマニアセイウチモドキ一匹で、家に住み着いたゴキブリをすべて駆除することができるとされていた。
タスマニアセイウチモドキは名前のとおり、元々はオーストラリアのタスマニアの湖水地方に生息していたという。しかし1980年代初頭にフロリダに密輸されるや、たちまち害虫駆除の人気者になった。秘密裏に行なわれた繁殖計画により、その数は増加。しかしそもそもタスマニアセイウチモドキを輸入することは違法であり、害虫駆除業者はこの生物が駆除業界を弱体化させるのではないかと懸念し、輸入禁止を強く働きかけた。
政府関係者も、タスマニアセイウチモドキが大量に輸入されることでフロリダの生態系に影響を与える可能性があると懸念を表明したという。この時の論争については、1984年4月1日付の『オーランド・センチネル』紙が報じており、記事には奇妙なタスマニアセイウチモドキの写真も掲載されていたことから、地元ではかなり話題になったようだ。
その後、タスマニアセイウチモドキをぜひ飼いたいという問い合わせが多数新聞社に届いたようだが、希少生物の密輸が問題視されたのか次第にこの話は聞かれることは無くなった。
……と、ここまで見ると珍しい生物をめぐる騒動に思えるかもしれないが、実はこの話は真っ赤な嘘だった。記事が掲載された日が1984年の『4月1日』だったことからピンときた人もいるかもしれないが、この記事はそもそもエイプリルフールのジョーク記事だったのである。記事に登場したタスマニアセイウチモドキの写真は、ハダカデバネズミを接写したものに過ぎなかった。
しかしハダカデバネズミは現代でも珍しい生物に該当するため、情報源の少なかった昔では信じ込んでしまう人が多く存在したようだ。
(加藤史紀 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 🄫Orlando Sentinel