スピリチュアル

「霊体験中に霊に見とれた話」

讃岐の白狐です。今回投稿させていただきますのは、福岡の大学の演劇部時代の不思議な体験です。

43年前の大学一年生の秋の話になりますが、その時の私は一年生でありながら大学生の本分を忘れ、講義には殆ど出席せず、身も心も演劇一色に染まっていました。

毎晩のように演劇部の先輩達について回り、夜を徹して公演の打ち合わせや演劇論を熱く交わす先輩達の飲み会に参加して、刺激的な時間を堪能していました。

そんなある日、3年生の先輩が2階建ての家を月1万円で借りたという話を他の先輩から聞きました。壁の薄いアパートや管理人のうるさい寮では何かと制約がありましたので、今後はその一軒家を集会所、第2部室にしようと みんなで盛り上がりました。

ところが、実際にはその先輩の一軒家に集まる事は無く、そんな話も持ち上がらずそもそも一軒家を借りた先輩が集会には参加しなくなりました。私は、その件に関しては誰に問う事もせず、ただ不思議に思っていました。

それから1カ月程経ったある日、突然に私は、先輩からその一軒家での演劇部の打ち合わせ会に呼ばれました。

ただ、絶対に他の部員には他言しない事、女性部員には絶対に気付かれない事を強く約束させられました。意味が分からない約束に何か違和感を感じていましたが、約束の午後10時に福岡市七隈(ななくま)の家に伺いました。

家賃が1万とは思えない程、しっかりした造りの それほど古くは無い大きな白壁の家屋で中に入ると玄関も広く、8畳2間の和室と広い台所、風呂もトイレも有って、現在のような事故物件的な発想も当時無かった私にはただただ羨ましい物件に見えました。

呼びこまれた部屋の真ん中には小さなコタツが置かれ、壁際にシングルベットと水屋と本棚、反対側の壁は一面ふすまで基本的にはその部屋一間だけで生活しているとの事でした。

集まった部員は私を含めて5名、全員男性で小さなコタツを囲んで早速公演の打ち合わせが始まりました。しかし、なぜか途中で突然階段を駆け上がる足音が聞こえたり、2階で誰かがゆっくりと歩く軋み音などが時折感じられる事が有ったので、

「2階には誰か同居人が居るのですか?」と尋ねると「気に成るなら2階に上がっても良いぞ。誰かがいたら、どんな人がいたか報告してくれ。」と不思議な答えが返って来たので「まさか、ここ幽霊が出るのですか?それで安かったのですか?」と言うと「らしいけど、いわくとかは特に聞いてないし興味も無い。それに1階には変な影響ないから問題ない。俺は住んでから一度も2階には上がってない。」

驚きながら家主の顔を見ていましたが、他の先輩達も事情を知っていたらしく私を見てにやにやと笑っていました。その後も賑やかな同居人たちは、様々な音を立てていましたが誰も気にしていない風でした。

この家が第2部室にならなかった理由も分かりました。




打合せとは名ばかりで、1時間ほどで卓上の紙の資料は焼酎とおつまみに変わり、宴会が始まりました。私以外は全員3年生だった為、私だけがコタツには入れず膝を抱えて先輩達の話を聞きながら2階の音を意識しないように焼酎を飲みながら真剣に会話に聞き入っていました。

深夜1時を回った頃、一人の先輩が家主に「いつも何時に下りてくるの?」と聞き、「2時前後だと思う。基本的に俺がギターを弾くと下りてくる確率が高いよ。」と答えました。「じゃあ、もうすぐだな。電気消してスタンバイしよう。楽しみだな。」と他の先輩。

私には会話の意味がさっぱり分からず教えてもらえないまま2時前に突然部屋の明りが消され、家主がギターを持ってベットの上に腰を掛けました。そして私に コタツに入って横になり、目を閉じて動かずにいろと指示しました。

言われた通りに横になって天井を見上げた時、私はなぜか少しずれて隙間の空いた天井板に気付きました。なんで、ずれたままにしているのかと考えていると、家主は常夜灯だけの部屋の中でギターを弾き始め、自作の曲なのか聞いた事の無い歌をささやくように歌い始めました。

私は天井に開いた黒い隙間を見詰めながら歌を聞いていましたがしばらくするとその隙間が徐々に広がっていくのが分かりました。

えっ!と思って目が離せずにいると、突然そこに白い人の顔が現れました。

その顔は女性に見え、眼球だけを動かして部屋の中を見渡していました。いきなりの事に声を発しそうになりましたが、声は出せず私はいつのまにか金縛りに掛かっているのが分かりました。

どうやらコタツの4人は私同様全員金縛り状態のようでしたがなぜか家主のギターと歌声は変わらず聞こえていて、天井の女性はベットの上の先輩に目を止めると煙のようにぬっと全身を現し、ベットの方へ流れて行きました。

重力に逆らって長い黒髪は逆立つ事無く、水色のワンピースをひらひらと揺らめかせながら、まるで水の中を泳いでいるかのように視界を横ぎって行きました。

私は眼球だけを何とか動かしてベットの方をうかがいました。どうやら彼女は先輩の横に寄り添うように座って、歌に聞き入っているように見えました。

変な話になりますが、通常なら恐怖感におそわれる状況の筈なのですが、その時の私には恐怖感は無く、その美しい女性の霊的な存在と歌う先輩の姿がロマンチックな光景にしか見えず、いつしか私はその女性の青白く美しい表情に見とれていました。

無理矢理目を見開いて左を凝視していたせいで、何度も目が痛くなって瞬きを繰り返す中で先輩の心地良い歌声の影響も有って、私は何時しかそのまま眠ってしまっていました。

翌朝、先輩に起こされ家を出て歩きながら「お前も見れたか?可愛かったよな。」と先輩が言い「彼女が出来たと言うから先日紹介してもらったけど、まさか幽霊だとは思わなかった。」

どうやら集会の本当の目的が、幽霊の彼女のお披露目会だったと知りましたが、不思議に嫌な気はしなくて、私はもう一度あの女性に会いたいと思いながら帰宅しました。

その後、その家の先輩は突然退学届けを学校に提出し、私達の前にその夜以降一度も姿を見せませんでした。しかも、誰もその先輩の話題を出す事も無く、私が一人で昼間にその家を訪れた時には呼んでも誰も出て来なくて、ひと気が無くなっていました。

退学した先輩がその後どうなったのかは分かりませんが思い出す度に不思議な想いに浸ってしまいます。

(アトラスラジオ・リスナー投稿 讃岐の白狐さん ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©カズキヒロ / PAKUTASO