これは1980年(昭和50年)5月22日の読売新聞に掲載された記事である。「吸血鬼にノドかまれた」というタイトルでアメリカ・ニューヨークで発生した猟奇事件を紹介している。
記事によると、『ドラキュラ伯爵』の舞台に出演したことのある女優が、何者かに喉を掻っ切られ、死亡するという事件が発生していた。殺されたのは、ジーン・エンジェルさんという25歳の女性で、彼女は秘書の仕事の傍ら、地元の劇団で活躍する舞台女優だった。
エンジェルさんは5月21日、自宅寝室のベッドで首から血を流して死んでいるのが発見された。警察の調べによると、何者かの侵入者に、鋭利な刃物で喉を切られたのは間違いないが、部屋のドアは鍵が部屋の内側からかけられたままで、誰かがこじ開けたような痕跡はなく、完全な密室殺人だった。
エンジェルさんは1978年の夏に『ドラキュラ伯爵』の舞台に出演した事があったことから、彼女の演劇仲間の間では「ドラキュラの呪いではないか」と風説も飛び交い、恐れられたという。
読売新聞では、この後の本件に関する続報がないために、果たしてその後、犯人が捕まったのかどうかは不明である。しかし、吸血鬼=ドラキュラは多くの映画や小説作品でも描かれているように、主に女性を狙い、首から血を吸い、コウモリに変身して窓から姿を消すことができるといわれることからも、「実在する吸血鬼が犯人だった」という噂話は妙にリアリティがあったようだ。
今回ご紹介しているエンジェルさんの事件も、①女性が狙われ②首から血を流し③忽然と消えた犯人、とまさに「吸血鬼の仕業」としか思えない非常に奇っ怪な事件であった。
なお、エンジェルさんのように「演じた役柄がそのまま将来に直結する」というパターンは、いくつか報告されている。海外の例を出せば、『インディジョーンズ』などの主演で知られるハリソン・フォードはインディ顔負けの「人助け伝説」を持っているほか、三島由紀夫が割腹自殺する数年前に撮影した自主映画『憂国』にて自身の死を予言したかのような自殺シーンを撮影していた、などの都市伝説は存在する。
(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©PIXABAY