東京に出たYさんはアルバイトをしながら、歌手のオーディションを受け続けた。歌手を目指すだけあって、自分の歌唱力に少しは自信もあったYさんだが、オーディションの結果は散々だった。来る日も来る日もそんな状況が続いた。
歌唱力が足りないのかと思い、遠回りでも音楽学校に通うべきかとも思ったが、家を飛び出したYさんにそんなお金は無かった。
Yさんは手頃な値段で受けられる、作曲家や一線を退いた歌手などが主催するワークショップなどに通いレッスンを受けた。
だが、事態は好転しなかった。
音楽学校に通うことを考えれば安いとはいえ、レッスンを受けるのにはお金がかかる。Yさんは睡眠時間を削り、アルバイトの時間を増やし、それまで以上にレッスンを受けたが、やはりオーディションに通ることは無く、一次選考で落とされ続けた。
そんな状況が数年続き、地方から出てきて、友達もいないYさんは、先の見えない状況と孤独感から次第に覇気を失っていった。それでも、夢を諦めることは出来なかった。あの時に見たライブのように、人を感動させる舞台に立ちたいという思いは決して色あせていなかった。
このままでは事態は好転しない。どうしたら良いのか散々考えているなか、あることを思いだした。
それは家に伝わるある祈祷だった。その祈祷を行えば願いが叶うと言われているのだ。
(※続く)
(監修:山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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