1965年(昭和40年)1月15日、『恍惚の人』などの作品で知られる、作家・小説家の有吉佐和子の自宅へ強盗が入ったものの、何も取らず玄関先で泣き出して捕まるという珍妙な事件が発生した。
翌1月16日付の朝日新聞の記事によると、1月15日午後8時頃、東京都杉並区内の有吉の自宅へ見知らぬ男性が訪ねてきた。この日、有吉は自宅で執筆中で、来客の対応は通常通りにお手伝いさんが行うことになった。時間が遅かったこともあり、そのまま居留守も使うことができたが、玄関のブザーを執拗に鳴らしていたため、注意も含めて対応することにしたという。
「はい、なんでしょう」
お手伝いさんがドアを開けると、刃渡り5センチ程度の果物ナイフを握った男がそこに立っていた。
「キャー!」
関連記事
【襲われた芸能人】スター自宅に狂気のファンが暴走突撃!家族が犠牲に…
芸能界有数の霊感タレント森公美子、飛行機では死神に…NYでは悪魔に遭遇!
お手伝いさんが悲鳴をあげると、男はそのまま家の中まで押し入るのかと思いきや、そのままガクッと膝を落とし、オイオイと泣き出してしまったという。
「脅かして申し訳ない…。強盗に入ろうと思ったのですが勇気がなく、こんなことをする自分が心底嫌になりました」といいながら大粒の涙を流しお手伝いさんへ果物ナイフを渡したという。事情はよく飲み込めなかったが、悪い人ではないと判断したお手伝いさんと騒ぎを聞きつけた有吉は「寒いでしょうし、まあ中へあがってください」と招き入れたが男は泣きじゃくるばかりで、困った二人は警察に電話し、引き取ってもらうことにしたという。
男は長崎県出身の21歳の男性で「東京で一旗あげてくる」と言い残し実家を出たが、仕事がなく都内の簡易宿泊所を転々としていたという。この日も繁華街をブラついていたが、金がなく腹も減っていたために強盗を決意。しかし、強盗として家に入った途端、根がいい人だったこの男は自分のやっている事が突然恥ずかしくなり、その場で泣き崩れてしまったという。なお、入った先が有名作家・有吉佐和子の自宅だったことは逮捕された後に知ったという。
有吉は本件について「お手伝いさんに呼ばれて玄関へ行ったら知らない男性が泣いていた。警察を呼んでくれというので呼んだのだがまさか強盗だったとは……」と驚いていたという。
なお、この珍事件の舞台となった有吉の自宅は彼女の死後(1984年)空家となった今も残っていて2021年目処に記念館としてオープンする計画があるという。
(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像『有吉佐和子の世界』