こんな話を聴いた。
四国のTという友人の証言である。T氏は在野ながらも優秀な民俗学の研究家である。そのT氏が民俗学の聞き取り調査中に出会った怪談であるという。
「具体的な地名はふせてくださいよ」
そうことわると、T氏はクールな口調で怪談を語り始めた。
四国の某所に廃病院がある。かつては、そこそこ繁栄し、地元住民にも親しまれた病院であったが、経営難には勝てず、とうとう倒産してしまった。その白亜の建造物は今は朽ち果て、子供たちに人気の幽霊屋敷とあいなってしまった。往時に人で賑わった建造物ほど、朽ちると程良い哀愁をかもしだすらしい。また、そのなんとも言えない幽寂なムードは、心霊好きの心をくすぐった。
「おい、気を付けろ」
「何か発見したか」
廃病院は毎夜心霊マニアの探検にさらされる事になった。心霊マニアたちの噂によると、昔は有名な病院であったが、廃墟となった今は幽霊の巣窟だというのだ。
ある時の事、心霊好きなDさんが、同好の仲間と一緒に踏み込んだ。
「よし、何か目撃できないかな、スリルを味わいたいね」
「心霊写真がうつるといいな、ワクワクするぜ」
Dさんと仲間たちは期待に胸膨らませ、廃病院を捜索した。だが期待にはずれ、何も起こらず、そのまま帰る事になった。
「なんだよ、心霊スポットって言ったって、何にもないじゃん」
「ああ〜期待して、ガッカリ」
それもそうだ。ここまで来たのに、手ぶらで帰るのも悔しい。
「あっそうだ、これ戦利品としてもらっちゃおうか」
「おっいいねえ、俺も欲しいぐらいだ」
Dさんは、病院内に散乱していたカルテを持ち帰ってしまった。
その日の深夜。突如、電話がかかってきた。
電話に出ると相手はこう言うのだ。
「カルテ…返してください…」
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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