「壁から這い出てくる親父の幽霊」を知った人のもとに、同じ姿の幽霊が出現する。個人的には都市伝説の同時発生のサンプルとして興味深く見守っていた。(後日、私の仕事仲間で、プロ霊能者であるあーりん女史に聞くと、自殺者や事故による死者で、壁や地中からはえているような状態で存在する霊体はいるそうである)
取りあえず、M氏の見る幽霊と酷似しているので、仮にこの幽霊を壁親父と呼ぶことにした。が、これがいけなかった。幽霊とは妖怪めいた名前をつけられると活動的になるのかもしれない。
M氏はまるで何かにとり憑かれたように「壁親父」の話をしゃべりまくった。青梅の妖怪ライブ、各地の妖怪祭り、妖怪サイト〜妖怪王の伝言板・チャット、そして史跡ツアー…あらゆる場でM氏は、壁親父の話を繰返すのである。廻りがもういいよ…とひいても続けるのだ。
(…どうも変だ)(まるで壁親父に取り付かれているようだ)
私の懸念を余所に奇妙な話は広がりをもっていく。
まずは、壁親父が友人・Kくんに感染した。
壁親父の出現場所を見たいと言って美影氏の自宅まで行ったその夜、彼の部屋に正体不明の化け物が出て、襲いかかったのである。何やら虫のような怪しいモノがK君の枕元に出現したという。K君は勇敢にも、手元にあった模造刀でその怪しいモノに斬りかかった。
どういう事であろうか。まるで、幻覚がうつるかのように…。いや幻覚が他人にうつることがあるのか。実際の幽霊なのではないだろうか。
不気味なことは更に続いた。
M氏が入院してしまったのである。詳しい病名は伏すが、一時は集中治療室に入るぐらいの重篤な状態であった。
この入院騒動にはM氏の勤め先の社長も、我々友人も色を失ってしまった。また、当時某雑誌の取材で張り付いていた呪禁師のTさんが、奇妙な事を言った。
「M氏が何物かから逃げ回る夢を見たよ」
と私に語った。
「そんな、馬鹿な」
ちなみに、Tさんは、M氏とあった事がない。だが、Tさんの言う夢の中の容姿はM氏そのものであった。どうにか生還したM氏だったが、私は「壁親父」の話は禁止している。
余りにも奇妙な事が起こりすぎたからである。(※続く)
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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