男は舌打ちしながら、絵をじっと見つめていた。すると、ドカドカと足音を響かせながら、部屋を出てどこかにいってしまった。
しばらくして、男は霧吹きのようなものを持って戻ってきた。男はその霧吹きで中に入っている液体を3枚の絵に吹きかけ始めた。すると、絵のいたるところが青白く発光し、奇妙なものが浮かび上がった。
それぞれの絵の片方の人間に手が生えているのである。
「やっぱりな。おまえこれどこで手に入れた」
男に聞かれ、Fさんは骨董屋で買ったことを話した。
「こりゃあそうとう危ねぇ絵だぞ。光っているのは血が塗り込められている部分だ」
男の話によると、絵に呪いを宿らせる呪術があり、その呪法で描かれた絵なのだという。Fさんがあとで調べたところによると、ルミノールという物質に過酸化水素を混ぜたものを血液に吹きかけると、青白く光るということを知ったのだという。多分この時男が噴射していたのも、その液体だったのはではないかとFさんは語っている。
液体を吹きかけられ青白い光を帯びた絵は、それまでの印象とは異なる不気味なものを表わしていた。
1枚目の絵では腕の生えた人間が乗り物を操縦しているように見えた。2名目の絵では腕の生えた人間がもう1人の人間の首を絞めているように見えた。3枚目の絵では腕の生えた人間がもう1人の人間を突き落としているように見えた。
「3人はこんな感じで死んだんじゃねぇか?」
男の言うとおりだった。男が言うには、この絵はおそらく20年以内に書かれたもので、多分この絵を描いた人間は既に死んでいて、その親族の何人かもこの世にいないだろうということだった。
つまり、それだけの代価をかけた凄まじい怨念が込められた絵だというのだ。
この絵のせいで死んだ人間はかなりの数になっているはずだという。話しを聞くFさんは戦慄を覚えた。
「絵ってのはな、本来やばいもんなんだぞ。絵と言う漢字は糸偏に会うと書く。糸つまり線を使って描いた形で別々の世界を引き合わせるって意味がある。この絵が繋げている世界はとんでもねぇところだぞ。」
男の語る話にFさんは全身に鳥肌が走るのを感じながら、ただ黙って耳を傾けるしかなかった。(※続く)
(監修:山口敏太郎)