これは山口敏太郎が2005年三重県熊野市にお住まいの郷土史家・小西清次氏から伺った怨霊伝説である。
市内の神山町(こうのやま)には、不思議な土着神が奉られている。その一名を「ひょうごさま」と呼ぶ。山中に古くから奉られる神であり、天狗とも、山の神とも微妙に違うらしい。地元の人々からは厚く信仰されているのだが、その境内には何百年も経た古木が生えている。この古木を伐ろうするものは忽ち「ひょうごさま」の祟りで死亡してしまうという。
昭和初期の事、小西氏の兄に当たる人物が林業に従事していた。ある時、兄の友人が若さ故だろうか、こう豪語した。
「ひょうごさまの境内の木を伐ると祟りがあるなんて、迷信だ。俺はそんなものは信じないから、今から木を伐ってやる」
そう言うと友人は、仲間たちと5円と酒一升を賭け「ひょうごさま」の境内の松の木を伐ってしまった。すると、どうしたことであろうか。友人は突如、腰が抜け、足腰が立たなくなってしまったのだ。
大騒ぎになったがどうしようもない。当時、御浜という場所にオタケさんという拝み屋さんがいたのだが、小西氏の兄と仲間たちは腰が立たなくなった友人をそこに運び込んだ。すると驚くべき事にいきなりオタケさんが激高した。
「ひょうごさまの木を伐ったからこうなったのじゃ、松の木だからこれで済んだ。三つ又で瘤のある杉を伐っておったなら命がなかったものだと思え」
この話が一帯に広がり、その後は誰も「ひょうごさま」の境内の木を伐る者はいないという。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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