妖怪

【東京妖怪伝説】足洗い屋敷

 本所七不思議いうものがある。これは本所界隈で起こった七つの奇妙な出来事を当事の人達はそう呼んだ。その中に「足洗い屋敷」という怪現象がある。これは、天井を突き破り巨大な血だらけの足がおりてくるという怪現象である。

 奇妙な話であるが、何故足がでるようになったかという原因のエピソードは不明であった。それが先日、私は偶然ある本により、その失われた「妖怪が出るようになった原因」を入手することができた。それが「江戸伝説 佐藤隆三 坂本書店 大正15年5月10日発行」である。

 今回、その内容を紹介しょう。




 寛永の末頃、〇〇左膳という勘定奉行が錦糸堀からおいてけ堀付近のある屋敷に移ってきた。妻の名前は、およね。息子膳一の3人家族であった。元々先祖は、甲州流軍学の家柄で武田家の家来であったが現在は徳川につかえていた。そんな時、妻が死んだ。左膳はさみしさのあまり、妾のおさわを家に招き入れた。妻の命日の事 左膳は三つ目付近を通りがかった。よくみると近所の若者に「おいてけ堀の狸」がつかまっていじめられている。左膳は妻の命日という事もあり、いくらか若者にお金をにぎらせ、狸の命を助けてやった。

 その晩のこと、枕元に怪しい女が座った。ややっ妖怪と左膳が退治しようとするとなんと昼間の狸だという。しかもこういうのだ。「そばによくない者がいるので気をつけた方が良いという。私も力添えする」。左膳は一笑に付した。だが実は、妾おさわと配下の星合鍋五郎の弟「良之助」と深い仲にあり、お家乗っ取りを計っていたのである。そして花見帰りの夜、左膳は良之助とその仲間に闇討ちにされ、どうにか囲みを敗って逃げ出すが、ついに絶命してしまう。

 息子の膳一はいつか姿の見えぬ敵を討つため武芸にはげむ。ある時、狸が庭に現れ「おさわと良之助の陰謀や、膳一の毒殺計画を書いた手紙」の断片をおいていった。この手紙を読み本当の敵を知った善一は、父の敵を討つ決心をする。

 ある日、道場から帰ると、おさわと良之助が一緒に寝ている。これぞ機会とばかりに切り込んだが 所詮子供の剣法。逆に良之助に追い込まれてしまう。そこに突如、天井をやぶり毛だらけの大きな足が突き出てきた。そして良之助 おさわを踏みつぶし引っ込んでいったという。それ以来のその部屋で寝ると足が出るという。

 これが「足洗い屋敷」の失われたエピソードである。なお、この屋敷は元々「凶宅」という不吉な家であり、更に井戸は「首あらいの井戸」と呼ばれ、庭には時折 「骸骨の行列」が出たという。また寛永の頃には水野十郎左衛門近藤登之助が退治した化け狐をまつった祠もあったらしい。




 明治以後、足洗い屋敷の呪いは健在で、安田財閥の安田翁が住んでいたが、その祟り為安田翁は朝日平吾に暗殺されたとも言われている。ちなみに「足洗い」の出る部屋は、書院と茶室の真ん中にあったらしい。

 しかし、この「足洗い屋敷」も関東大震災により焼失してしまった。妖怪も地震と文明には勝てなかったのであろうか。今回、参考にした本はなんと関東大震災の直後にかかれており、著者は最近昔の伝説が失われつつあるとなげている。まだ江戸時代から50年ぐらいしかたっていない当時ですらこうである。

 さらに91年後の現代であるこの21世紀の世の中をどう思うであろうか。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)