今から30年程前の実話です。
私がまだ大学生だった頃の話です。私は当時横浜市の某町に住んでいました。学生が多い町でしたが、古い町並みもあり、不思議な感じのする町でした。ある日、私は大学に行く途中、怪しげな骨董品屋に目をとめました。
おやこんなところにこんな店があったのだろうか?いぶかしげに思った私は店内に入って見渡してみました。すると妙に心がひかれる絵があったのです。
奇妙な図柄が描かれています。一つは家の屋根から人が落ちて怪我をする絵、二つめは車がクラッシュし、乗っている人が怪我をする絵、三つめは、オートバイが車にはじとばされ、ドライバーが転倒している絵、そして最後は、小さな人形が人間をおそっている絵でした。大変気味の悪い絵ですが、前衛芸術に見えない事もありません。当時、アートぶっていた私はそれを3000円で購入しました。それから私はその絵を自分の下宿の部屋に飾ったのです。
奇怪な現象が起きたのはその日からでした。その夜、友人のIが真っ青な顔をして下宿を訪ねてきたのです。「俺、大学やめなきゃいけなくなりそうだ」「どうして」「大工やってる父ちゃんが屋根から落ちたんだ」「なんだって」私は唖然としました。こんな不幸な事があるでしょうか?その夜、私とその友人は思い出を語り合いました。
それから更に1週間ほど過ぎたでしょうか、バイトを一緒にやっている親友のOの身に大変な事が起きたのです。
その日バイトのシフトだったのにOは姿を見せませんでした。結局、彼が姿を現したのはバイト先のレンタルビデオ店が閉店する頃でした。あちこち包帯をまいてます。彼の話によると3日前に友人が運転する車で事故に巻き込まれ今日まで病院にいたというのです。よく命があったというぐらいの大事故だったそうです。私は何やら奇妙な感覚にとらわれました。
そして、3つ目の不幸は私の下宿の近くで起きました。
ある夜、私の下宿の前でクラッシュ音が聞こえました。バイクと車が接触事故をおこしたようです。現場に駆けつけた私はびっくりしました。なんと幼なじみの友人Eが倒れていたのです。どうやら私の下宿に遊びに来た途中で事故にあったようです。幸い怪我は軽かったようですが、これはもはや尋常ではありません。
明らかにあの絵が呪っているのです。こんな奇妙な偶然が何度も続くはずない。友人を病院に送り届けると、私は部屋にかけてある絵の事を急に思い出しました。
この絵のとおり不幸がおきている。転落事故、自動車事故、バイク事故。この絵は『死に神』なんだ。この絵のとおり不幸がおきている。いやひょっとしたら、この絵が不幸を呼んでいるんだ。私は夢中になってその絵を壁から、はぎとるとかかえて下宿を飛び出していきました。そして夜のゴミ捨て場にその絵を投げ捨てると私は下宿にもどりました。
そして、その夜私は、胸に異様な重さを感じ目を覚ましました。よく見ると布団の上に小さな影が乗っています。「一体何者だ?」私がそう思った瞬間、その影がすすっーっと私の首もとまで近寄ってきて首をぐいぐい締め始めたのです。
や、やめろ・・・私は無我夢中で払いのけると下宿の部屋を飛び出しました。そして、その小さな化け物から逃げ出しました。異様な気配が後方でします。奴は追ってきてるのでしょう。このままでは追いつかれてしまう。そう思った時です。ぽつんぽつんと雨がふってきたのです。
そしていつしか大降りの雨になったのです。私は雨に打たれながら、小さな影が消滅した事を感じました。もはや異様な霊気が追って来ることもありません。私は理解しました。そうです。この雨であの呪いの絵具が雨水で流れてしまったのでしょう。絵が消えた事で呪いも消えたのかもしれません。私はようやく心の平穏を取り戻しました。
それから、幾日かたったある日、私はまたあの骨董品店の前を通りかかりました。するとまた今度は別の絵が飾られていました。この絵を買う人はいったい誰でしょうか?
もしかして、もう既にあなたの自宅の壁にかかっているかもしれません。
(山口敏太郎事務所 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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