少し前にネットを中心に流行った都市伝説「赤い部屋」について紹介した。
この「赤い部屋」の話は近年に成立した都市伝説の中でも特に類話、バージョン違いの話が多いという特徴がある。主だったところでは「開くと呪われるPCサイトの話」、「ナンパした『全ての調度が赤い部屋』に住む女の話」、「タクシーを利用した全身赤尽くめの女の話」などがある。
この都市伝説を調べているうちに、筆者はあることに気がついた。
この「赤い部屋」という創作の都市伝説が生まれる90年代末期より、古く「赤い目の女」という話が流布していたのだ。
これは「赤い部屋」というバナーが消えない都市伝説とは、まったく別物の話である。要約して紹介すると、こんな内容の都市伝説である。
「運転手が覗くと、そのドアの穴から赤い部屋が見える。おかしいなと思っていると実はあの屋敷の女は赤い瞳をしている女であることがわかる。つまり、ドアの穴から覗いた赤い部屋は、女の瞳に写った室内だったのだ。そうである、男が覗いたとき、女も向こうから男を覗いていたのだ」
いかがであろうか。
つまり、既に流布していた「赤い目の女」という都市伝説と、創作された都市伝説「赤い部屋」が混合し、新しい流布話を生んでいるのだ。
二つの話に共通する「赤い部屋」という設定が、二つの都市伝説を混同させ、結果的により怖い都市伝説が生まれたのである。これは都市伝説の進化上でも興味深い事例である。
創作都市伝説と、実際に口承で流布されていた都市伝説(個人の心霊体験が伝聞されるうちに都市伝説になったと思われる)が混ざり合って、より恐怖度を進化させるというこのパターンは都市伝説の謎を解明するのに大いに役立つ。
それにしても、神の見えざる手である偶然や集団的無意識で生まれた話は怖いものである。作家個人が創作した怪談さえも取り込んでしまうのだから。
故に人々の口承を拾うフィールドワークはやめられないのである。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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