沖縄県の糸満市喜屋武には奇妙な伝説がある。荒崎という場所で「はなもー」と叫ぶと海が荒れると言うのだ。しかも、その荒れようは普通ではないという。時には叫んだ人さえも波がさらってしまうという。
これは怨霊、ハナモーの仕業だと言われている。ハナモーとは、昔死んだ美しい娘の怨霊なのだ。因みに、ハナモーとは“鼻無し”という意味である。
かつて、久米島に美しい娘がいた。この娘に嫁入りの話がまとまった。
「早くお嫁に行きたいわ」
娘は婚礼の日を楽しみに思っていた。しかし、布の裁断中に事故にあってしまう。鼻を落としてしまったのである。
「こんな顔では、お嫁にいけないわ」
娘は己の容姿を悲嘆し、結婚をあきらめ、一人寂しく死んだ。その女の怨霊が、ハナモーだという。
異説では、美人すぎた人妻の霊だとも言われている。その女性は人妻であったが、美女であったため、多くの男の憧れの的であった。
「おまえが、浮気しないかどうか、不安で仕方ないよ」
夫はいつも妻の顔を見てつぶやいていた。
「あの人にこんなに心配かけるなら、いっそこの顔を美しくないようにしてしまおう」
そう思った妻は、自分の鼻を刃物でそぎ落とした。すると夫はこう言った。
「なんて醜い女だ、もうおまえなんかしらん」
夫の非情な言葉に女は打ちひしがれた。妻は、そのまま海に身を投げ、その恨みから怨霊・ハナモーになった。
いつの時代も男は勝手な生き物である。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション編集部)
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