都市伝説といえば、ホラーの一種のような不気味な話ばかりのように思われるが、「いい話」で終わる美談のものも多い。
およそ30年前に、日本中を感動の嵐の巻き込んだ偽善?めいた作り話がある。タイトルは、「一杯のかけそば」というものであり、話のストーリーは、以下のとおりである。
ある年の大晦日に一杯のかけ蕎麦を分け合う母子三人がいた。貧乏なため、三人で一杯のかけ蕎麦をわけ合って食べているのだ。
「ほう、何らかの事情があるんだろう」
心配そうに蕎麦屋は見守るが、それから、毎年のようにその親子は大晦日に一杯のかけ蕎麦を食べに来た。だが、しばらしくすると、姿を見せなくなった。
「心配だな、どうなったんだろうか」
蕎麦屋の心配をよそに数年の月日が流れる。そして、久しぶりに来店した母子は、子供たちが成長し、見違えるように立派になっていた。子供たちの出世のお陰で、一人一杯づつのそばが食べれるようになっていたのだ・・・。
大筋こんな内容だった。この逸話は大ブームとなり、聞くだけで号泣するおばさんも出る始末。
映画化もされた。中にはこの”見え見えのこしらえ話”を、実話と思いこむ者もでてくる次第で、日本人の馬鹿さ加減を象徴する話である。現在なら、爆笑されるような胡散臭い美談だが、二十世紀はこれが受けたのだ。
作者の栗良平氏は、後に逮捕された。
美談の作者の顛末が、逮捕とは情けないが、美談をくりあげるテクニックと、寸借詐欺のお涙ちょうだい話は紙一重という事であろうか。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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