天火は江戸時代の書物「絵本百物語」にて紹介されている妖怪である。
天火は数ある怪火の中でも、ある意味一番恐ろしい妖怪と言えるかも知れない。何故なら、天火の炎は時に全てを燃やし尽くす業火となるからだ。
同書の記述では、某所で代官を務めた者の家に現れた天火の話が書かれている。
この代官は時代劇に出てくるような悪代官であり、私欲のために人々を苦しめ、仕えていた主人の家名にも傷を負わせるほどであった。この代官が退役して一月ほどが過ぎた頃、急にこの代官の屋敷に火の手が上がった。全く火の気の無かった場所から生じた炎はまたたく間に燃え広がり、屋敷も家財も、蓄えた金銀財宝も、その一切を焼き尽くしてしまったという。
当然ながら、代官らも焼死してしまった。一部始終を目撃した人によれば、その日、天から燃えさかる火の一団が降りてきて屋敷を包み込んだという。
この話はまるで悪代官に天の裁きが下ったように見えるが、一般の人の家に天火が降りてきて焼け死んでしまった、というケースもあるようだ。やはり相手は妖怪、そうそう人間の都合に合わせて動いてくれる物ではないようだ。
なお、同書には地面から三十間(約54メートル)あまりは悪魔などが住む世界であり、様々な妖怪が存在する所であるとも書かれている。もしかすると天火は雷などの自然現象による発火を妖怪と解釈したものなのかもしれない。
(山口敏太郎事務所 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)