妖怪・幽霊

【実話怪談】鎖の音

 これはNさんと彼女の母が池袋にあるサンシャインシティに買い物に訪れた時のお話である。

 無事に買い物が終り、彼女たちは雨が降る中、帰宅の途についていた。傘を手に2人で会話を楽しみながら歩いていたのだが、会話にまぎれて異質な音がNさんの耳に入った。

『ジャラ…ジャラ……ジャラ…』

「えっ、何っ」
 それは明らかに雨の音とは違った。Nさんは再び聞き耳を立てた。




『ジャラ…ジャラ……ジャラ…』

「なっ、何なの?」
 音に驚いて立ち止まり、辺りを見渡すが、音の主であろうものはどこにも見当たらない。静寂な空間が広がっている。

「どうしたの?」
 急に立ち止まったNさんを振り返り、彼女の母がNさんに問いかけた。若干だが、語尾が震えている。彼女の不安が母にも伝わっているのだ。

「んっ? いやぁ、重い、重い鎖を引きずるような音がする」
 Nさんが喉の奥から、搾り出すような声を出した。だが、母親は即座に否定した。

「鎖!?そんな音、私には聞こえないけど」
 Nさんの母はそういうと、辺りを見回し、再びNさんへと視線を戻した。Nさんの嫌な胸騒ぎはまだ続いている。

「うん、でも、私には聞こえるんだよね」

「サンシャインシティの辺りって昔はスガモ・プリズンだったのよね。サンシャイン60の北隣にある東池袋中央公園にある石碑は、昔絞首台が設置されてた場所だっていうし。もしかしたら、まだ成仏出来ない人がこの辺りにいるのかもね」
 母親はやんわりとNさんに話した。彼女と母は再び歩き出した。

「そっか…そうだったね」
 なんとなく彼女は自分の中で納得すると、Nさんも母に続くように歩を進めた。だが、怪異の追跡は彼女を離さない。

『ドンッ』

 何か妙な衝撃を背後に感じた。歩いている最中に、Nさんの背中に何かがぶつかったのだ。
「すみませ……」すぐに謝ろうとNさんは後ろを振り返った。すると、目の中に異様なシーンが飛び込んできた。

「ええええっ、なんなの!」
・・・目の前に異様な人物がいた。




 白と黒のストライプ模様の服を着た男性が体操座りでその場に座り込んでいたのだ。彼は微動だにしない。死んだ魚のような感情の無い瞳でこちらを見ている。雨がしとしと降っているにも関わらず、寂しげな表情のまま座り込んでいるのだ。

(体が少し透けてる…この人は生きている人じゃない!!)
 その事実に気がついたNさんは、先を歩いている母に向かって走り出した。男性はNさんについてくることは無かったという。

「歴史上では、60年以上前に戦争は終わってますよね。でも、まだ彼らの中で戦争は終わってないのかもしれない」

 雨の中、微動だにせず座り込んでいた男性を思い出すかのように…。彼女はポツリとつぶやいた。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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