山ほどもある大きさの骸骨が這いずりながら迫ってくる、という妖怪の絵を見たことがある人は多いだろう。
戦死者や野垂れ死んだ人の怨念や埋葬されなかった骨達が集まって巨大な骸骨の姿になり、体の関節や大きな顎をがしゃがしゃと鳴らして襲いかかってくるものが妖怪がしゃどくろだ。
しかし、じつはこの妖怪は1970年代に敢行された昭和の子供向け妖怪書物によって作成されたものである。
各地の伝承にも「唄い髑髏」や「卒塔婆小町」といった髑髏が勝手に歌い出したり、生前の身の上を話し出すという話はあるが、いずれも人間の骸骨が主体となっており、非常に大きな骸骨が出て来たという伝承は残っていない。
このがしゃどくろのイメージは江戸時代の歌川国芳によって描かれた浮世絵、『相馬の古内裏』が元になっているという。
この絵は平将門の遺児である滝夜叉姫が討伐に来た大宅太郎光国に妖術で呼び出した骸骨を差し向ける絵で、実際は無数の骸骨が襲いかかるシーンなのだが、国芳は人間の数倍もある巨大な骸骨として表現したのだ。
この印象深い絵は多くの妖怪関連の書物で扱われるようになり、がしゃどくろとしての設定が後に付け加えられ、巨大な骸骨の妖怪としての地位を確立していくようになったのである。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)