まだ生物学が発達しておらず、妖怪や未確認生物と実在の生物の判別がつかなかった昔には、現代では考えもつかないような荒唐無稽な特徴を備えた生物の報告例が多数存在していた。現代では、それらが幻獣や妖怪の伝説として語り伝えられている。
11世紀から17世紀にかけて、欧州で存在が信じられていたのが「ベルナカ」ことフジツボ・ガンである。
この鳥は現代でも棲息している鳥のガンに似ているのだが、なんと木から果実のようにして産まれ落ちると言われているのである。
ウェールズの聖職者にして歴史家のジェラルド・バリはこの鳥が海に投げられたモミの木材から生じるとしており、雛ははじめ木材についた海草のようにくちばしでぶら下がっているが、次第に身の回りは貝殻で覆われ、やがて羽毛が生えそろっていく。
この雛は海や木材の湿り気から栄養を得て成長し、羽毛が生えそろうと貝殻から飛び出して水の上に降りたり、空へ飛び去っていくのだという。この鳥は海の漂着物からいつの間にか生じてくるものであり、成長した親鳥が卵を木材に潜ませることも、温めて孵化させることもないようだ。
このように「木から産まれる鳥」の伝説は欧州各地に伝わっていたようで、ドイツの地理学者であり「世界地理誌」の著者セバスティアン・ミュンスターはスコットランドの話として「葉が団塊状に凝集したような形状の実をつける木」があると記しており、時が来てこの実が海中に落ちると海鳥となると述べている。
また、有名な海賊フランシス・ドレークの舟の竜骨にも、かつてこの鳥が産まれ、巣だった跡と見られる貝殻が多数付着していたとする記述も残っている。これらの伝説から察するに、ベルナカは当時よく知られていなかった貝と渡り鳥の特徴から考え出されたものではないかと見られている。
(加藤文規 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)