かつて、30年近く前に社会を感動(偽善?)の嵐の巻き込んだよい(大甘)の話に「一杯のかけそば(著・栗良平)」というものがある。話のストーリーは、以下のとおりである。
「大晦日に一杯のかけそばを分け合う母子3人がそばにやってくる。貧乏なため、3人で一杯のかけそばをわけあって食べているのだ。何か事情があるんだろうと、そば屋は見守るが、それから、毎年のようにその親子は大晦日に一杯のかけそばを食べにくる。だが、しばらしくすると、姿を消してしまう。そして、数年ぶりに現れた母子は、子供が見事に成長、立身出世し、一人一杯のそばが食べれるようになっていた」
多少の差異はあれど、大筋こんな内容だったこの逸話は大ブームとなり、映画化さえされた。
中にはこの”見え見えのこしらえ話”を、実話と思いこむ者もでてくる次第で、ワイドショーなどでも大々的に取り上げられた。世間がすれてきた現代なら、爆笑されるような胡散臭い美談だが、作者の栗良平氏は、後に逮捕された。
美談の作者の顛末が、逮捕とは情けないが、美談をくりあげるテクニックと、寸借詐欺のお涙ちょうだい話は紙一重という事であろうか。
さて今、再び主婦のサイトで「いいはなし」としてへんてこな話が流行っている。まるで昭和時代にみんなが騙された「一杯のかけそば」のリメイク版ともいえる「お子さまランチ美談」が、主婦の熱い涙をがっちりつかんでいるのだ。ここで美談都市伝説としてご紹介しよう。
ある年配の夫婦が某テーマパークを訪問する。夫婦はそのテーマパークの園内にあるレストランに行く。注文を聞きに来た店員に
「お子様ランチ3人前お願いします」
二人連れなのに、何故かお子様ランチを3人前注文する。だが、そこでは子供以外は、お子様ランチを注文できない。
「お客様、お子様ランチは子供のお客様以外は注文できないのです」
店員が断りにいくと、夫婦が身の上話をし始めた。
「実は10年前、うちの子がなくなったんですが、その時お誕生会をここでやってお子様ランチを食べる予定にしていたんです。…だから、今夜あの子の10年目の今日は記念にやってきたんですよ」
事情がわかった店員は感動し、夫婦二人分と、亡くなった子供の分、合計3人分のお子様ランチを出したとさ・・・。
こんな筋書きであるが、これで大泣きする主婦が多いという。なんだか妙な世の中である。この話は、実話とも作り話とも言われており、その正体は定かではない。一説に、接客マニュアルとして、一部のファミレスの研修で使われるとか、某有名テーマパークの研修で話される話だとか言われている。
まあ現時点では、都市伝説的にささやかれている「お子様ランチ美談」だが、「世界の中心で愛を叫ぶ」などに代表される純愛小説ブームの影響だろうか。現代人は涙を流したい、心が癒されたいという傾向が強いようだ。
この手の美談都市伝説は、今も昔も多い。例えば動物に関する美談なら、「お使い犬の美談」がある。
ある県にすむ人が、毎晩犬の首に入れ物とお金をさげ、豆腐屋に買い物にいかしていた。大変頭のよい犬で、毎晩ちゃんと豆腐を買ってきていた。ある時、その人が隣県に引っ越してしまった。そこで新しい居住先でも、近所の豆腐屋の場所を犬に教えた。
「おい、おまえ、今度はこの豆腐屋に買い物にくるんだぞ」
早速、その夜犬をお使いに出した。だが、犬はそのまま行方不明になった。
一ヶ月後、犬はふらふらになって帰ってきた。
「おまえ、今まで何をしていたんだ」
首からさげた入れ物にはちゃんと豆腐が入っている。
「この豆腐は以前いた家の近所の豆腐じゃないか…」
なんと犬は、以前住んでいた家の近所の豆腐屋まで買い物にいっていたのだ。
主人のため、飲まず食わず一ヶ月隣県まで走り抜いた犬は帰宅後、そのまま絶命してしまったという。
いかがであろうか。犬好きの人に話すと号泣必至の都市伝説である。他にも飼い主の死後も駅で待ち続けた「忠犬ハチ公」も、実は主人を向いに行っていたのではなくて、屋台の常連からもらえる餌が目的だったとも言われている。
なんでも美談にしたてて、お涙ちょうだいという茶番はいつの時代もあるのだ。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
※画像©写真素材足成