【怪談実話】新聞配達がやって来る

 これは、某地方で20年ほど前に噂になった怪談話である。

 「おはようございます。新聞です!!」毎朝、新聞配達をして高校に通う少年がいた。
 働きながら母子家庭を支える評判の孝行息子であった。また、作文も上手で、母親を想う文章で大きな賞をもらったこともあるという。彼は大の野球好きで、中日ドラゴンズのファンでもあった。

 結局、家計を助ける為に朝刊のバイトを選び、野球部の活動を諦めたのだが、決して後
悔はしてなかったらしい。
 「新聞配達にプライドを持っています」そう明言する彼は、野球帽を被っていつも配達していた。少年のさわやかな笑顔は、早朝の街を明るくしたという。

 「おはようございます。○○新聞です」その元気な挨拶は人々の間で朝の定番メニューになっていた。
 「ご苦労さま」そんな明るい会話が毎朝あちこちで聞かれた。

 Sさんの叔父も、その少年から毎朝新聞をもらうのが楽しみで、朝の四時には庭で待っている程であった。
 「おはようございます。○○新聞です」青年のさわやかな挨拶が聞こえる。
 「いつも、ご苦労さん」叔父さんも、それに対して声をかけるのを慣わしとしていた。




 ある日のこと、その少年が配達に来なかった。
 「あの子が休むとは?…なんかおかしいな~」「風邪でも、引いたのかね?」と口々に町内の人は騒いだ。
 だが、来なかったのではなくて、来れなかったのである。

 彼はその朝、死んでしまったのだ。実を言うと、車に自転車ごと巻き込まれ、死亡したのである。

 事故現場の付近に住み事故後、現場に駆けつけた人の話によると「それは酷いもんだったよ…、ぺちゃんこさ」。少年は、大型車のタイヤに巻き込まれた。
 少年の体は、まるでカーペットのようにぺちゃんこになっていた。
 「きゃああああ」野次馬から悲鳴があがった。
 だが、驚くべきことに少年には、意識があった。
 「大丈夫か」顔なじみの人が声をかけた。
 少年は、その人に向かって言った。「しん、ぶ、ん くばらない‥と、」
 
 口から血を吐きながらしゃべったのである。
 「いけないよ、しゃべっちゃ」
 だが、少年は血を吐きながら続けた。「で、でっでも約束だから…」そして、その直後、目と口から大量の血を吐いた。(ごぼ、ごぼっ)そのまま、少年は絶命してしまった。

 その日以降、違う担当者がSさんの叔父宅にも配達に来るようになった。
 「遅れてすいません、新聞ですう」
 だが、新聞が来るのが遅いのだ。亡くなった少年に比べて、効率が悪いのか、まだなれてないのか。新聞の配達時間は、毎朝五時頃になってしまった。
 「なんだ、今度の担当は…。まったく遅すぎる」「まったく、腑抜けだ」早起きのSさんの叔父は、この一時間の遅れがなかなか我慢できなかったという。

 だがそれ以来、奇妙な事件が起こり始めた。毎朝 四時頃に、何者かが新聞を配達に来るようになった。本物の配達が来る、ちょうど一時間前にその配達はやってくる。
 「あの、四時頃聞こえる足音はなんだろう」「あれは誰なのだ」近所の人々は不安げにささやいた。
 Sさんの叔父の家は、狭い路地の奥にある。表通りに一度自転車をとめ、徒歩で歩きながら郵便や宅配はやってくる。新聞配達も同じであった。

 「キーッツ、タッタッタッタ コトン」自転車のブレーキの音、小走りに走る音。ポストに新聞が落ちる音が聞こえる。
 「まるで死んだ少年と同じ足音に聞こえる…」
 「まさか、まだ配達してるんじゃ」
  町内の人々は恐怖に震えながら、そうウワサした。この足音が聞こえた後、不思議に思って自宅の新聞受けを覗いた人もいたらしい。だが、空のままだったらしい。

 ある日のこと、庭の花が朝露でボロボロになり、四時起きのSさんの叔父は庭で花を相手に奮闘していた。
 (これはまずいぞ~品評会があるんだから)必死に庭仕事をやっていると、新聞配達の足音が聞こえた。
 (おおっ、きたな)叔父は、無意識に新聞配達に反応した。




 少年のすがすがしい声がこだました。「おはようございます。○○新聞です」
 「おおっご苦労さん」 返事はしたものの、次の瞬間凍りついてしまった。

(おかしい、こっ、この少年は、、死んだはず‥)目の前にはドラゴンズの帽子を被った少年が佇んでいる。そして朝の風が少年の後ろ髪を静かにゆらめかす。

 「僕の死んだ事故が出てる新聞です」帽子を深く被った少年はそう言った。そして、にゅ~と、血まみれの新聞を手渡した。血だらけの右手で帽子をとると、(どぼ、どぼっ)と口と目から、大量血をはきだす少年。
 「うあわあああ」悲鳴をあげる叔父さん。
 
 少年は、ゆっくり消えていった。少年が消えた後、庭の花は全滅してしまったという。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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