筆者はオカルト関係に強い作家の事務所に勤めている。しかし、こういった職場だからと言って、そうそうこの記事のネタになるようなホラーな経験をしているわけではなく、むしろ心霊関係のネタに困って汲々としているのが現実である。
以前職場に女性の後輩が入った時の話である。普段は全く別の職種についているのだが、職場に親戚筋の人がいるので人手が足りない時は手伝いに来てくれている子であった。
彼女にある程度仕事を手伝ってもらったある日のことである。暑い中、事務所のあちこちを片付けるなど肉体労働をしてくれたので、筆者は労いつつ休憩するよう薦めた。その時に事務所の作家先生の本を読みたいと言っていたので、こちらもいいよ、と答えた。
彼女は暫く先生が原作を担当した漫画本を読んでいたのだが、あるエピソードに入った時に私に訊ねてきた。
「この話、本当ですか?」
それは先生が某所で催した夜通しの怪談イベントの一部始終が描かれていたものだった。
そのイベントでは、怪談が進んで行くうちに目覚まし時計のような電子音が鳴り、訝しんだ編集者が音源があると思しき、部屋に赴くと白い着物に身を包んだ女性を目撃。しかし後を追ってきた先生には全く見えなかった・・・という話だった。とは言え、このイベントの時は筆者も社員ではなく、参加者でもなかったために「本当にあったことだと聞いている」と伝聞調で答えていた。
すると、彼女は漫画のページを見て「ちょっと違うなぁ・・・」と首を傾げたのだ。
「違うって、漫画を面白くするために少し変えたって事? 女の人を怖めにするとか」
実話と唄っていても、こういう漫画などでは読者の興味を惹くために多少のアレンジを効かせることはよくある。
しかし、彼女は首を振ると、
「確かに男の人(※編集者)と先生がこの部屋に入っていって、男の人の方が幽霊だって騒いで建物から出て行ったけど・・・違うよ」
「この白い女の人、イベントで怪談を話してる先生の右後ろにずっと浮いてたんだよ」
彼女と、彼女の従兄弟もこのイベントに参加していたそうなのだが、彼女達には終始先生の背後にゆらりと立つ白い女の人が見えていて、互いに「あれ、何?」とささやきあって怖がっていたそうなのだ。そして、異変に気づいた編集者が別室の方へ移動するのに合わせ、先回りするように動いていったのだという。
「あんなに近くにいるのに、先生は気づいていないようだった。あんまり近くにいるから、先生、実は気づいてないふりしてるんじゃないかと思っていた」
彼女はそう、私に説明してくれた。
先生が実は霊感があるのではないか、という疑問は筆者も抱いたことがあるのだが、それは次回としておきたい。