この江戸末期の力士・小柳は、日本人で初めてレスラーやボクサーと異種格闘技戦を行った男である。
1854年(嘉永7年)ペリー提督が二度目の訪日をした際、幕府は日本の相撲の力強さを誇示し、外交を優位に運ぼうと画策、ペリー艦隊への贈り物セレモニーの中で、力士たちに米俵を運ぶパフォーマンスをやらせる事にした。
この催し物に、ペリー艦隊の海兵たちは度肝を抜かれた。大男の集団が重い米俵を軽々と担いでいく。続いて相撲のぶつかり稽古がはじまり、その迫力の前に驚きはピークに達した。
了仙寺宝物館(下田市)に保管されている「ペリー提督日本遠征記」には、ペリーのぶつかり稽古を見た感想が書かれている。
「巨大な怪物が、野獣の本能を発揮き、動物のように獰猛さで睨み合っている姿を見ると、もはや人間という気がしなくなってくる」
いかに、アメリカ人が初めてみる相撲にインパクトを受けたのがわかる。
また「黒船談義」という文書には、力士と海兵たちの間で行われた異種格闘技戦について詳細が記述されている。
水兵の中のレスリング・チャンピオンであるウイリアム、そしてブライアン、ボクシング・チャンピオンであるキャノンという3強が、大関・小柳に挑戦したいと表明した。つまり、1対3の変則マッチである。
小柳は体重こそ150kgあるものの、身長は170cmしかない。
まず、仕掛けたのはボクシングのキャノンである。鋭い右ストレートが小柳にせまる。そのストレートをかわすと、小手にはたきこんだ。するとすぐさまウイリアムとブライアンは腰に向けて猛烈なタックルをしかけてきた。小柳はウイリアムの首をとり強烈にかかえこんだ。同時にブライアンの腰のベルトつかむやいなや、足を払い片手で釣り上げた。足では、はたき込んだキャノンを踏んづけている。
なんとも凄まじい技である。ペリー軍に悲鳴にも似た歓声があがった。
日本人で初めての異種格闘技戦にトライし勝利した男・小柳。幕末から明治にかけて最強格闘家の一人であろう。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
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