妖怪・幽霊

【実話現代奇談】きつつきやま(中)





【実話現代奇談】きつつきやま(上)より続く

それ以来、特に不安になるような事態は起こらず、なんとか新生活は回り始めていた一週間がぐらいが過ぎた日だった。

その日は仕事を終えたあとの夜に、いったん東京に戻ることになっていた。東京での請負仕事が数件あって、それをこなすために車で行くことにした。

都内での仕事中、次女から連絡メールが入ってきた。『水道はしばらく使ってなかったのでタンクがさびていた。これはすぐに応急処置をして、直しました』とのこと。また『納屋の前が駐車場なので、雑草など刈って広くしておきます』とのことだった。

いろいろと気遣ってくれる次女さんになんだか申し訳ない気がして、不安はあるもののこちらからは何も聞かずにいようと決めた。だが、気になってしまうと調べてみたくなるのが人間性。

触れてはいけないとおもいつつ、スマートフォンで検索をしてしまった…。

「○○ちゃん失踪 ◎△○○町」

いまから10年前の怪事件。いまだに未解決。生死もはっきりせず遺留品もないそうだただ、事実を記した記事を読み進むと、思い浮かぶ。ちいさな町のあの風景を知っている自分にとっては、あまり気持ちの良いものではなかった。

ただし、なぜかこの事件が気になり、これから再び向かう大阪の土地にも少し興味が湧いてきた。

この土地についた、きつつきやまという地名。同じ名前の総合病院があり、それが町の目印にもなっていた。しばらく暮らすうちに、そんなに恐怖は感じなくもなるかな、とは思っていたのだが…

東京の仕事を終え、車で到着すると、その町には相変わらず人気の無い静けさが広がっていた。大家さんのお宅へ手土産のりんごを持っていったときに「少しお部屋を片付けておきましたよ」と、ボソッと玄関先で言われた。

借りた家は広すぎる。ひとり住まいなのに、襖を全部開放すれば大広間にでもなりそうな空間のど真ん中が寝場所になっている。寝場所となっている8畳間リビングと台所へとつながる間口だけが唯一の開放口。一方は玄関口から伸びる廊下への壁、ふとんを敷いた頭の先と左手の二方は襖で塞がれて開けることはできなかった。

「物置代わりにしていて散らかっているので、この二つのお部屋は開けないでくださいね。」と以前言われ、その言いつけ通りにしていた。




次女さんが部屋を片付けていたのは、二つの部屋の片一方。その先のには更に襖があり、若干ずれて隙間が空いていたのだが、真っ直ぐに締め切ってあった。この部屋の奥には、何かただならぬ雰囲気を感じた。好奇心が湧き、奥の襖を開けてみようと思った。片手では開けられず、無理やり力で開けようとすると、全体が外れてしまう感じがした。

中を覗こうとした瞬間!

「バキャン」 と、玄関先から何か割れるような大きな音が聞こえた。

恐る恐る、玄関先を確認するが何も割れていない。外に出てみると、納屋の前に植木鉢が多数見えた。その中の白い植木鉢が真っ二つになって転がっている。この庭には植木鉢が20ぐらい並んでいて、その中には土がはいってるだけのものや、枯れている花が植えてあるものがあった。割れた鉢を拾い上げると、真っ二つに割れていた。土すら入っていない鉢だった。

なんじゃこりゃ、と。

驚いていると携帯にメール着信音。次女さんからで『今日は移動お疲れ様。もし、よかったら明日の夜、お鍋にするので食事に来てください」。先ほどの出来事に動揺しながら、二つ返事のみで返答してしまった。

その後は、部屋を歩き回って、襖が気になったものの、何も起きなかったので、ささっと晩飯を作り、風呂に浸かってから寝床についた。夕暮れとともに外は風が強くなってきた。きっとさっきの植木鉢も風でだったんだと、無理矢理にそう思うことにした。

翌日は風の中、ほうれん草の収穫作業。防寒着を着込んでただ黙々とこなしていた。お世話になっている大屋さんが長女で、部屋を貸してもらっているは次女。今夜のお鍋はこの姉妹と三人でということになった。

ここに暮らし始めて、やっとしっかりとご家族と会話ができる。場所は自分が借りている家。鍋を囲み、会話も進む。こちらは聞きたいことが山ほどあったが、いきなり切り出すのは失礼かと思い、きっかけを探していた。

姉妹は西の女性らしく、ぽんぽんとリズムよくいろんな話が飛び出し、盛り上がっていた。この際だから借りている家について聞いてみた。

どうやらこの家の家主は、姉妹の兄でひとり暮らしをしていた。そのお兄さんは身体が弱く、病気をわずらって入退院を繰り返していつ、二年ほど前から長期入院してましい、この家は無人になったそうだ。そのお兄さんはどうしてるかと聞くと、「もう「厳しい」んだよね」と言う。

幼い頃から兄とはあまり接しなかったので、姉妹で物事を決めていたという。どんな病気なのかも聞くことはできなかった。
「いままでこの家は誰も手をつけなかったのだけど、あなたが来てくれることになって、踏ん切りがついたというか、“きっかけ”になったよね」

農作業の仕事でもお世話になっている長女が、「この家の中を片付けるのたいへんだったよねぇ」と続ける。

なんとなく、察しはついた。近くにいながら疎遠な家族関係。

「お兄さんには悪いけど、もう厳しいから、この家はこれを機会にきちんとしておこうと思ってね」

話は変わり、「この地域は山が多くて大変だけど下の街と比べたら里山という感じで静かな暮らしなんですよ」という話になった。この丘が7つの山になって、ななつやまと呼ばれていると知った。

たくさんの話をして、夕食会はおひらきになった。「明日またよろしくね」と言ってふたりともそれぞれ車で帰っていった。

入院しているというお兄さんの存在が気になっていた。

毎日の農作業にも慣れ、夜は少々怖いものの、あの植木鉢が割れて以来は、おかしなこともなかった。春になるまでこの暮らしもまあなんとかなるだろう。と言い聞かせて自分で納得はしていた。

そんなある日。

西の若手農家が集まって、飲み会をしようというので、久しぶりに電車を使って飲み会の場所へ向かう。ほぼ知った顔での久しぶり集まりった。




飲み会は盛況であった。今どこ住んでんの?ということで、K町のきつつきやま、てとこだよと答えると、農家のひとりがふと、

「怖いとこやわ。わしあそこ今だにいかれへん」

一同爆笑、他のひとりが

「こいつ、そこで昔怖い目あってんねん」

彼の名前は町ちゃん。30半ばで、まだヤンチャな感じの明るい男だった。昔自分がレストランの仕事をしているときに、何度か彼の野菜を仕入れたことがある仲だ。

町ちゃんから怖いという体験をひとつひとつ聞いていた。今考えると聞かなければよかったと後悔している。

町ちゃんは同じK町のはずれに家があり、畑は10km離れたS市にあった。彼の若い頃、きつつきやまで○○ちゃんの失踪事件があり、その当時は誰もが恐怖におののいて、ちいさな町はただならぬ雰囲気だったそうだ。

ただ、その数年前にはもっと恐ろしいことがこの町では起こっていた。

(続く)

(しむらあきひろ ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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