現在30代主婦のEさんが子供時分に通っていた京都の某小学校には、本校舎と別に理科室や音楽室といった特別教室が入った旧校舎があった。古い建物と言うこともあり学校の怖い噂は旧校舎に集中していた。

特に子供たちが恐れていたのは『4時44分44秒の鏡の噂』。木造3階建の各階の間には広い踊り場があり、大きな鏡がかかっている。夕方4時44分44秒にその鏡を覗き込むと、不気味な老婆の姿が映り鏡の中に引き摺り込まれるという話だ。他にも4時になると旧校舎の中を『4時婆』が徘徊し、子供を見つけるとさらっていくという噂もあった。




ある日、帰宅後に明日のテストで使うリコーダーを音楽室に忘れてきたことに気付いたEさんは慌てて学校へと走った。すでに時計は3時を大きく回っていた。旧校舎は授業がある時以外は施錠されており基本的に無人である。

早くリコーダーを取りに行かないと4時婆に襲われる!そんな恐怖にかられながら職員室へと飛び込むと幸なことに担任の教師が残っていた。Eさんは旧校舎の鍵を借りる際に怖いのでついてきてと担任に懇願したが一笑に付されてしまった。時計は4時を回っている。仕方なくEさんは旧校舎へと急いだ。

古い木造校舎の中に入ると薄暗く静まり返っている。4時婆の歩き回る気配もない。息を殺して歩くも床が容赦なくギシギシ音を立てる。すでに鏡の世界に迷い込んでしまった様な感覚に陥る。2階の音楽室へ行くには鏡のある踊り場を通らなければならないが4時44分にはまだ間がある。鏡を見ない様にすれば大丈夫だろうと、Eさんはできるだけ鏡から離れるようにして階段を駆け上がった。

2階の廊下に出て、左右を見渡しても4時婆の姿はない。すぐ目の前には音楽室。Eさんは脇目も振らず引き戸を開けて教室に入った。

「わぁ!」思わず悲鳴を上げてしまった。

薄暗い教室の中に人がいた。ポツンと一人教室の中ほどに立っている。

「先生……!?」

それは間違いなく今しがた鍵を借りた担任だった。服装も同じ、顔も同じ。しかし強烈な違和感があった。「先生……いつ来たの?」担任はEさんの問いには答えず無表情で立ちつくしている。その眼はEさんをじっと見ている。慌てて目をそらし机の中からリコーダーを取りだすと、Eさんは教室を飛び出した。

今にも『担任の姿をした怖い何か』が追いかけてきそうで生きた心地がしなかった。職員室に駆け込むと担任が居た。いつもの先生だった。鍵を返しながら「先生ずっとここにいたよね?」と訊くと担任は「どうしたの?ずっといたわよ。」とほほ笑んだ。それはいつもの先生だったが、それでもなんだか怖くて今体験したことは話せずじまいだったという。

Eさんは4時婆の棲む異界に踏み込んでしまっていたのかもしれない。














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