徳島県阿南市山口町、袖ヶ嶽の姫と首切れ馬

四国の徳島県、阿南市山口町に伝わる袖ヶ嶽(そでがたき)の首切れ馬伝説は、佐々木喜善の『馬首飛行譚』でも紹介されている。ただし、地名の「川口」は間違い。

原因は、佐々木の引用した『首切れ馬の話』(報告=後藤捷一)が「山口」を誤って「川口」としたからだ。

さて、現在の阿南市山口町大久保の国道195号線沿いにローソン阿南山口町店がある。ここから北側に見える山の山頂に岩の塊がある。

それが袖ヶ嶽だ。

この巨岩の頂上は平らで、そこに「カンカラ穴」と呼ばれる縦穴がある。小石を投げ込むとカランカランと音をたてて落ちて行くのでそう呼ばれるが、最後にはポチャンと水音がすると伝える高齢者もいる。この縦穴の下には湖(!)があるのだそうだ。

この地下湖の湖畔に、京都山科から零落して流れてきた公家の姫の屋敷が建つ(と伝わる)。

この地下湖には、ベルヌの『地底旅行』の地下海のような空中放電か何かで上部に青空と見間違う「空(そら)」があるのか? あるいは、永遠の闇で黒い湖面に屋敷の灯かりが映っているのか?

とにもかくにも、ここに住む姫が、カンカラ穴から首切れ馬に跨って飛んで出入りするのである。

彼女の行き先には諸説あるが、私が地域の高齢者たちから聞かされたのは、数キロ南側の新野町の重友の袖ヶ鼻に行くというものだ。

なお、後藤の聴き取りでは、公家の姫が妖怪となった理由などは次のようなものである。

ある年の大晦日に強盗たちが押し入り、姫や家臣を惨殺し金品を奪った。その後、大晦日の夜に怪火の行列が通り、左片袖の大振袖の姫が首切れ馬に乗って重友の袖ヶ鼻に行く。

もう一人の郷土史家の横山春陽は『阿波伝説集』(昭和6年発行)に、「鴻江淵の大蛇」の項で、この伝説を歌詞に組み込んだ盆踊り歌があると書いている。出だしは《袖が嶽のお姫さん、首切れに馬打乗つて、鴻江淵に水浴びに》となる。悲しいかな平成の今日では忘却され、歌詞の全体は見つからない。

ただ、まあ、「カンカラ穴」に縄梯子を掛けて降れば地下湖を見ることも可能のはず。

湖と呼ぶのは大げさでも、鍾乳洞の横穴に水溜りと、その水辺に誰かが建てた祠でもあると想像できる。

しかし、「地下に降りるのは不可能だ」と言われた。「山頂を訪れた人々が音を聴こうとして小石を投げ込み続け、穴が塞がってしまった」という理由だ。

妖怪側は妖力で出入りが可能でも、我々のような人間には出入りは不可能となってしまったのだ。調査が数十年遅かったということだ。残念!

文:多喜田昌裕

【写真説明】 写った電柱の上部に見える岩の塊が「袖ヶ嶽」




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