妖怪

【怪談実話】百物語

Sさんがまだ学生だった頃、大学の運動部で多摩の某お寺に合宿に行きました。その時の話です。

日中はハードなトレーニングを行い、夜は毎晩宴会でした。そして合宿1週間目に入った頃、そろそろ毎日同じように続く宴会にも飽きた仲間達の間で百物語をしようという事になりました。百物語とは怪談を百話行うとそのあと本当の怪異が起こるという肝だめしのようなものです。




早速、怪談を始めた猛者達でしたが、20数人のメンバーで語ってみると、あっと言う間に百話は終わってしまいました。にもかかわらず、怪奇現象などもありません。「なんだ、こんなもんか」仲間達は皆そう思うと、ずいぶんと酔いも回ってそのまま寝てしまいました。

その夜、Sさんは何故だが眠れませんでした。そして真夜中になりました。ふと、Sさんが横で寝ている友人を見ると、なんと、見たことのない女が友人の顔に覆いかぶさっているのです。そして、ふっーと息を吹きかけているではありませんか。そう、まるで魂を抜き取るようにです。

Sさんは恐怖で頭が真っ白になりました。女は部屋の入り口から順に仲間達の顔に息を吹きかけていきます。

『次は俺の番だ』『どうしよう』『逃げなきゃ』、Sさんがそう思った瞬間、その女はSさんの顔を見て、ニコっと笑ったのです。そして透けるように消えていったのです。




その後ですが、女に息を吹きかけられたSさんの友人達3人は全て20代でこの世をさりました。もしかして、あの女に魂を奪われたのでしょうか。Sさんだけが何故かそのまま無事に現在40代半ばを向かえています。

「実は俺、あの後に一度だけあの女を見たんだよ。そう、自分の息子が公園で転んでひざを擦りむいたんだよなあ。そしたら女房が飛んで行って、息子の膝にふーっと息を吹きかけたんだよ。そして俺のほうを向くとニコッと笑ったんだよ。その顔にゾッとしたね。まさしくあのときのあの女の顔だったんだ」

(聞き取り&構成 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)