皆さんは隠し婆という妖怪を知っていますか。
地方によっては隠し神、子とり婆とも呼ばれ親の言った事を聞かず、夜遅くまで遊んでいる子供達を魔界にさらってしまうという恐ろしい妖怪です。私の生れ育った町にも妖怪隠し婆がでると言われていた古くて不気味なお宮がありました。特に妖怪隠し婆は女の子と遊ぶのが大好きで、散々遅くまで遊んだ挙句女の子をさらってしまうわけです。
そこで遊んでいる女の子達もその事は充分知っていて日が落ちる前には帰るのが私達子供のルールでした。男の子であった私もかつてそのお宮の前でついうっかり日が暮れるまで遊びほうけてしまい、気がついたら辺りは真っ暗で人気もなくなり、一人ぼっちになっている事もありました。
さらに怖い事には私の背後で音無くお宮の格子戸がすーっと開いたのです。私が振り返るとそこにはお宮が真っ黒な口を開けて私を吸い込まんばかりに待っています。あの中に妖怪隠し婆がいるのか。私は恐怖に震え、転がるようにそこから逃げ出しました。あの時の恐怖は今でも覚えています。
またこんな事もありました。私を始め近所の子供達がお宮の前で遊んでいました。メンコとかビー玉とかをやっていたのですが、そのうち誰かの提案で「かごめかごめ」をやり始めました。今の子供達には馴染みがないかもしれませんが、鬼になった子供が目隠しをして中央に座り、その廻りを他の子供達が手をつなぎ唄を歌いながらぐるぐるまわるのです。そして唄が終った時点で真ん中の目隠しをした子供が自分の背後にいる他の子供の名前を当てるという遊びです。
何度か繰り返したあと、ある女の子が目隠しをして中央に座りました。そして唄が終り私達は一斉にこう聞きました。
「うしろの正面誰だ」
一瞬の短い間をおいてその女の子はこう言いました。
「おばあちゃん」
当然あたりにはおばあちゃんの姿など見えません。廻りの子供達は顔面が蒼白になりました。
「うわーっ出たーっ妖怪だーっ」
私達は一目散に逃げだしました。中には半泣きになっている子供もいます。あとでその子に聞いたのですが、何故おばあちゃんと言ったのかよくわからないそうです。ただなんとなく背後におばあさんの姿を感じたというわけです。人を驚かす為に悪い冗談を言う女の子ではなかったので、私は本当に不可解な感じがしました。
しかし、妖怪隠し婆とは一体何者でしょうか。
ここで興味深いお話しをしましょう。私の幼馴染みのB子ちゃんから聞いた隠し婆も話です。B子ちゃんの友達のS子ちゃんがある日の夕方一人でお宮の前を通りかかると、何やら感じの良いおばあちゃんが手招きをしています。その笑顔についS子ちゃんもふらふらとそのおばあちゃんの元へ行ってしまいました。
そのおばあちゃんが言うには今から遊ぼうと言うのです。まずおばあちゃんはお手玉をしようとS子ちゃんに言いました。お手玉が嫌いなS子ちゃんが「お手玉はいやっ」と言いますと、おばあちゃんはボソッと言ったのです。
「くそっお手玉に詰めて突き殺してやろうと思ったのに」
次におばあちゃんは縄飛びをしようと言いました。しかし、縄飛びが嫌いなS子ちゃんが「縄飛びはいやっ」というと、今度はおばあちゃんが小声でこう言ったのです。
「くそっ縄飛びの縄で絞め殺してやろうと思ったのに」
段々、おばあちゃんはイライラしてきたようです。最後におばあちゃんはかくれんぼをしようと言いました。そこで、かくれんぼが大好きだったS子ちゃんが「かくれんぼは大好き」と言うと、おばあちゃんは満面の笑顔を浮かべてこう言いました。
「おまえが隠れて、おばあちゃんが鬼をやろうか」
しかし、S子ちゃんは不満そうな顔をしてこう言いました。「私はかくれているのを見つけるのが得意なの、だから、おばあちゃんが隠れて私が鬼になるから」。
おばあちゃんは残念そうにこう言いました。
「おまえを隠してしまい、私が鬼になって食ってやろうと思ったのに残念だよ・・・」
すると、おばあちゃんは急に跡形もなく消え、あとには誰もいないお宮がありました。
(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)