千葉県に実在する、ある旅館での話です。
OL生活に見切りをつけたSさんがこの旅館に泊まる事になったのは、ほんの偶然でした。駅の観光案内所で骨董品や絵画がたくさんある宿と聞き、つい先程滞在する事にしたのです。確かに館内には展示ルームがあり、各部屋にもそれぞれ絵画や骨董がところ狭しと飾られていました。これだけで美術好きのSさんの気分転換にはもってこいでした。
Sさんが仕事を辞めたのは何か新しい事がしたくなったというのもありますが、社内の恋人と別れた事も原因でした。それをこの一人旅で精算しに来たのです。
窓からは海がよく見えましたが、その部屋の中には青白い男の油絵が飾られていました。しかし、なんか憂鬱そうなその絵をなんとなくSさんは好きになれませんでした。
その夜Sさんは一人ゆっくりと宿で床に着きました。夜中の2時ぐらいでしょうか。Sさんは異様な感覚に目が覚めました。何者かが足をなめているのです。
「やめて、やだー」
Sさんは必死に抵抗しようとしましたが、思うように身体が動きません。声さえも出ないのです。そのうちにその変質的な行為をしてくる人物の姿が見えてきました。若い男です。もう夢中でSさんの肢体をなめまくっているのです。
失神しそうになりながらもSさんはどうにか悲鳴をしぼりだす事に成功しました。
「いやー」
その瞬間、男は顔をSさんに向けたのです。なんとその顔は赤や青の入り混じったぐちゃぐちゃの肉塊でした。しかもどろどろと流れています。Sさんはそのまま失神しました。
翌朝仲居さんに介抱され気づいたSさんはようやく正気を取り戻しました。「あれは夢だったのかな?」不思議に思うSさんは自分の足に異様な感触が残っているのに気づきました。見てみると自分の足じゅうに絵の具が塗りまくられているのです。
じゃあ、昨日の男って・・・。Sさんは部屋のあの油絵を見ました。
そこには抽象画のようにどろどろに崩れた顔の男の絵があったのです。
(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)