池上遼一は、『男組』『クライング フリーマン』『HEAT-灼熱-』などの作品で知られる日本の漫画家。
その力強い美麗な人物の描画とその画風から”劇画家”と称されることもあり、そのスタイルはアジア各国の漫画家に大きな影響を与えたという。近年では、『ガールズ&パンツァー』(ガルパン)にハマったと公言、弟子と共に同人誌を発行、また萌え絵で応援イラストを提供するなどして注目を集めた。
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漫画家の野中英次は、池上の画風をパロディにしたギャグ漫画を描くことで有名であり、『魁!!クロマティ高校』といった作品では、池上の描くような劇画タッチのキャラクターたちが、シリアスなトーンでありながら、あまりにもくだらない事柄を延々と繰り広げるというシュール性が人気を博した。
これについて当の池上は、亜流が出るということは自分の作品がそれほど認知されたということだから嬉しいと語っている。本人も公認のパロディではあるものの、はじめて作品に触れた人々の中には、池上と野中が同一人物と思い込むファンも少なからず存在したという。
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池上は、1970年からおよそ1年半ほど『月刊別冊少年マガジン』にて「スパイダーマン」のコミカライズ連載を手掛けていたことがある。
アメコミヒーローの一人として知られるスパイダーマンであるが、池上版スパイダーマンは、舞台も主人公も日本人という設定となっており、またヴィラン以上に醜い民衆、社会の不条理に苦しむスパイダーマンといった、きわめてハードで重々しい内容に仕上がっている。
スパイダーマンをはじめとして多くのアメコミヒーローを生み出したスタン・リーが、この池上版スパイダーマンを見て「我々のスパイダーマンとは違う」「どう評価していいか判らない」と感想を述べたとの逸話すら残っている。なお、日本版スパイダーマンとしては、その後の1978~79年に東映が製作したテレビドラマ版もあるが、こちらは池上の作品と無関係である。
余談だが、かつて手塚治虫はスタン・リーと対談した際、アメコミの中でもスパイダーマンは筋骨隆々ではなく華奢な体格であるため、最も日本人に受けると断言していたという。
さて、その池上はかつて水木しげるのアシスタントをつとめていた。その理由は、池上が『ガロ』に発表していた作品の画力に水木が感心し、編集部に頼んでアシスタントとして呼び寄せたことによる。
言ってみれば、池上は水木からスカウトされたと言っても良いのだろう。水木原稿の背景を担当していた池上であるが、水木夫人によると池上の仕事のスピードは驚くほど速く、さらには描き上がりも綺麗であったという。
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また、この時期水木のもとには当時すでにプロとして名が知られていた漫画家のつげ義春もアシスタントとしてつとめていた。
つげも、水木からのオファーによってアシスタントとなっていた。実は、池上はアシスタントとして上京するまで水木作品を一切読んだことがなかったが、その一方でつげの大ファンであった。
水木のアシスタントとして入ったその場につげがいてさぞ驚いたことだろうが、水木によると、池上は「私よりも、つげさんのことを先生と呼んで、よっぽど尊敬していた」という。なんとも不思議な関係の中のアシスタント生活だったようだ。
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【参考記事・文献】
・https://x.gd/pgI92
・https://x.gd/gWf6g
・https://realsound.jp/movie/2020/06/post-576844.html
・https://ctokuta.hatenablog.com/entry/2020/10/16/063035
・https://realsound.jp/movie/2020/04/post-533678_3.html
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