萩原健一は、映画やテレビドラマの俳優そしてザ・テンプターズやPYGといったグループ・サウンズ、ロックバンドでボーカル歌手として活躍した人物。
2019年に68歳でこの世を去ったが、その影響力はすさまじく、松田優作などの次世代の若手俳優に留まらず、前田吟といった年上の共演者、さらには小堺一機やとんねるずなどのコメディアンや、果てはミュージシャンに至るまで及んだほどであった。
『傷だらけの天使』などの主演でも知られる彼は「ショーケン」という愛称で親しまれていたが、この愛称は不良であった子供時代に「ケン」と付く名の仲間がおり、体の大きさによって「ダイケン」「チューケン」として一番体の小さかった萩原が「ショーケン」と呼ばれたことに由来するという。
不良であったという経歴に違わず、彼の荒々しさを象徴する逸話がある。
象徴するものでは、とあるコワモテで知られた某俳優が、「萩原さんはレベルが違う。スイッチが入ったらブッ飛んじゃう」と語ったほどであるという。現に彼は、大麻不法所持、業務上過失傷害罪、恐喝未遂などで幾度も逮捕されたことがあり、これによって映画の途中降板や一定期限の活動休止なども発生していた。
その一方で、豪快さを物語るエピソードも多い。ビートたけしの映画の撮影中、現場に突然現れたかと思うと、「何かやろうか」と服を脱ぎだし「衣装もってこい。出てやる」と言い放ったという。たけしは「帰ってくれ」と言ったものの、「表現する場所に入るとテンションが変わった」などと語っている。
松竹映画『約束』(1972)では、主演俳優が降板したために代役として出演することになったのだが、岸恵子を相手役としてラブシーンが撮影された際は、何度もNGを出してしまった為に「何度もキスしたいからだろ！」と監督に怒られたという。本人の弁によれば、わざとではないらしい。
ラブシーンについての逸話は他にもあり、濡れ場のシーンでは当時前貼り無しも当たり前だったが、本気で相手の女優さんとXXしてしまったこともあったと言われている。このことは、彼なりの演技への一途さを象徴するものと解釈する向きもある。
彼が出演した代表的な作品の一つに『太陽にほえろ！』があるが、新人刑事役として白羽の矢がたったものの「ボーヤ」というあだ名の出演だったことで最初は出たくなかったという。その後結果として「マカロニ」になったものの、「マカロニもねえだろ」思っていたそうだ。
実は、「太陽にほえろ！」でお馴染みであった”殉職”は、彼のアイデアで始まったものである。
1年でやめるという条件も付けていた中で、とうとうその回の撮影となった際、当初の構想ではマカロニの異動という形であったが、「殉職にして欲しい」と願い出たという。はじめは周囲から猛反対を受けたが、結果的に押し通すことで決まり、その後このドラマの名物と化した。
このような”ひらめき”は、主演作品である『傷だらけの天使』にもあった。当初は、撮影スタッフと共に「テレビ史上初になる」ということでタイトルバックを用意しなくてよいのでは、と話していたところ、プロデューサーがやってきて「見る人が混乱するから」との理由でタイトルバックの用意を求められた。
そこで彼が考えたのが、牛乳、トマト、ソーセージ、そしてコンビーフといったすぐに用意できる食材を使って「朝食をただひたすらに食べる」シーンであったという。新聞を前掛けに使ったのは、ある時街で見かけた工事現場のおじさんの真似であったとのこと。
こうした独特の感性と流儀が、彼の俳優人生を形作っていたことは間違いないだろう。
【参考記事・文献】
ショーケン追悼伝説 コワモテ俳優もビビる「スイッチ入ったらブッ飛んじゃうから」
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/130459
尽きぬ破天荒エピソード…それでもショーケンが愛された訳
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/250924
ラブシーンで何度もNGを……萩原健一、68年の面白くてかっこいい人生
https://bunshun.jp/articles/-/11328
ショーケン豪快伝説「太陽にほえろ！は出たくなかった」「酒もタバコも女も飽きた」
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2019/03/29/kiji/20190329s00041000034000c.html
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【文 ZENMAI】
