泥棒除けのまじないとしてよく知られているのは、京都を中心に関西で見られる「逆さ札」だ。
逆さ札とは、「十二月十二日」という日付を記した札を逆様にした札であり、玄関や扉あるいは窓などに貼るという風習として残っている。
この日付は、天下の大泥棒として有名な石川五右衛門が釜煎りになった日いわば命日が(諸説あるが)12月12日であるということに由来しており、また逆様にしているのは昔泥棒が天井裏から忍び込んだため、その際に「十二月十二日」の日付が正常な位置で見え「お前も(五右衛門と)同じ目に遭うぞ」と泥棒を戒める意味が込められているという。
この逆さ札は泥棒に入られる側のまじないであるが、実は一方で泥棒に入る側の「捕まらない為のまじない」というものも存在しているというのはご存じだろうか。泥棒が捕まらないためのまじない、という時点ですでに奇妙にも感じられるだろうが、その内容というのも仰天するようなものとなっている。
それは、なんと忍び込んだ家の土間などに大便をすることだという。これは、「盗みに入った家で大便をし、それが冷めないうちに盗みを終えれば捕まらない」あるいは「盗みを終えた後に大便を残して去ると捕まらない」というようなバージョンの違いがあるようだ。
一説によると、泥棒とはいえあれもこれもと物色に長い時間をかけるのではなく手早く仕事を済ませよ、という戒めの意味があったのではないかと考えられる。ひり出してすぐは温かい大便も、数分すればすぐに冷めてしまうため、自分自身が持ち得るものでリミットを計れる指標として用いられたのかもしれない。
それでも人糞という形で表されるというのは実に不思議な話である。なお、玄関先など屋外で大便が発見されるという場合もあり、これについては「誰にも見つからずに脱糞できれば捕まらない」という意味合いのまじないであるとも言われている。
こうした脱糞によるまじないは、一説には心理学的な意味合いを持っているのではないかとの意見もある。すなわち、泥棒に入るというのは極度の緊張状態でもあり、そのために便意を催すということもあり得る。
そこで脱糞をするという行為が、緊張状態からの解放、落ち着きを取り戻す役割を持っているのではないかということだ。そうして冷静になってこそ盗みのミスを犯しづらくする、というのがこうした奇妙なまじないの様式を形成するに至ったのではないかというのである。
現在でも、時折空き巣などの被害があった家で犯人が残したと思われる大便が発見されるということは、日本に限らず世界でも見られる。日本以外の国でこのようなまじないが存在しているかは定かではないものの、先の心理的な作用として催すということは可能性として十分に考えうることだ。
しかし、DNA鑑定などが発達した現代において、こうした泥棒のまじないはもはや自白をしているも同然となってしまうだろう。そう思うと、なんとも時代を思わせるまじないだ。
【参考記事・文献】
大便と泥棒
http://thetoshidensethvu.seesaa.net/article/408034385.html
盗みに入った家でウンコを流さなかった泥棒、DNA鑑定で御用に
https://rocketnews24.com/2017/08/13/939807/
十二月十二日のお札を玄関や窓に貼る風習とは?逆さ札の由来をご紹介!
https://neirof.com/8665.html
【アトラスラジオ関連動画】
【文 ナオキ・コムロ】
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