『インデペンデンス・デイ』や『メン・イン・ブラック』シリーズを代表作に持つアメリカの俳優であるウィル・スミスは、ハリウッドスターの中でも非常にユーモアに富んだ人物として幅広い層に親しまれている。かつてのエディ・マーフィのポジションを引き継いだ男とも言われており、高い演技力などでアカデミー賞の受賞経験もある。
彼は複数回の来日経験もあり、親日家であることも知られている。中でも日本のウォシュレットを大変に気に入り、購入して自宅のトイレに備え付けたというエピソードもあり、そのことでインタビューを受けた際も上機嫌に語ったほどであるという。
2019年に公開されたディズニー映画の実写版『アラジン』では、ランプの魔人であるジーニー役を担当したが、このことで一騒動が起こっている。公開の前年、アラジン・ジャスミン・ジーニー役の俳優たちが雑誌の表紙を飾ることとなったのだが、問題のウィル・スミスのジーニーはそのまま人間的な姿をしており、あの象徴的な青色の肌もしていなかったため、「単なるウィル・スミス」と言われてしまった。
その後、「これは人間に扮した姿」「本編では青くなるよ」と公式からアナウンスされることとなった。そして、いざ本編が公開されると確かにジーニーは青色になっていた。しかしながら、それを見た多くの人々からは「ジーニー」ではなく「ただの青いウィル・スミス」という反応で埋め尽くされ、トレンド入りするほどの話題となった。
このように、その話題性から非常に好まれていたウィル・スミスであるが、ある事件をきっかけとして大きく評価を揺るがす一大騒動へと発展していった。それは2022年3月27日の第94回アカデミー賞授賞式にて発生した、司会者クリス・ロックへの平手打ち(ビンタ)事件である。
ことの発端は、コメディアンであったクリス・ロックが、脱毛症に苦しんでいたウィル・スミスの妻の髪型を揶揄したことによる。この発言が腹に据えかねたのであろうウィル・スミスがステージ上で彼にビンタをくらわせたの。授賞式はテレビ中継もされており、視聴していた世界中のファンに衝撃を与えることとなった。
のちに、彼は自身のSNSを通じて謝罪、またアカデミーの会員を辞任することとなり、映画芸術科学アカデミーより今後10年間はアカデミーの主宰するイベントへの出禁という決定が下される結果となった。
このビンタ事件は世界中で賛否両論となったが、文化圏によって著しく評価が分かれるという特殊な事態にもなり、特に欧米では非難の意見が多数であったという。特にアメリカでは、セレブや権力者をコメティのネタにするという文化の存在などもあり、「手を出したウィル・スミス」が悪いという意見が多く、また高学歴・高所得層であるほどこの意見をとる傾向があったようだ。加えて、黒人差別の払拭に尽力する人々の活動に水を差すものだとして、黒人コミュニティからの批判も相次いだという。
だが、一方で日本での評価は反対に「最愛の人が侮辱されたのだから行動は理解できる」「クリス・ロックが悪い」などと擁護の意見が多かった。
これは、ウィル・スミスの好感度が日本国内で高かったこと、「いじめ・ハラスメント」に対する強い認識、さらに仇討ちの風習に由来した報復への価値観、「妻は夫に守られるもの」という家父長制文化の根強さなどが影響しているのではないかとの論もある。それでも、「暴力ではなく言葉での反論であれば結果は違っていた」「安易な擁護は暴力を美談にさせてしまう」という意見も見られているのは事実である。
結果的に、この事件によってウィル・スミスは一時休止状態に追い込まれることとなってしまったが、その一方でSNS上ではビンタの様子が”妙にかっこいいフォーム”だったことが一因となり、ネットミームとして広くコラージュ画像が作成される現象も起こった。
なお、ウィル・スミスによってクリスへの謝罪も行なわれたもののクリスはだんまりを決め込む反面、自身のトークショーでは相変わらずウィルのジョークをし続けているという。
【参考記事・文献】
ウィル・スミス、ウォシュレットがお気に入り
https://www.cinematoday.jp/news/N0010251
青いウィル・スミス
https://dic.nicovideo.jp/a/%E9%9D%92%E3%81%84%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9
ウィル・スミスビンタ
https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%BF
【文 ZENMAI】
Photo credit: Gage Skidmore on VisualHunt.com