三木武夫は、第66代内閣総理大臣を歴任した徳島県出身の政治家である。
マスコミを積極的に活用することで、ロッキード事件などの金権政治に対抗するイメージを国民に持たせることに成功し、「議会の子」「クリーン三木」などと称されたが、一方でロッキード事件における田中角栄逮捕によって党内から三木内閣退陣の動きが起こり、三木おろしという倒閣運動が激化したことでも知られる。
現在も毀誉褒貶、賛否両論が激しく分かれるほど評価が難しい政治家の一人とされている。
さて、現在の日本の警視庁に所属しているセキュリティポリス「SP」と言えば、要人警護任務に専従する警察官のことを指す呼称であることはご存じだろう。日本においてSPが創設されたのは、三木武夫のとある事件がきっかけであった。
1975年6月16日、佐藤栄作元総理大臣の国民葬が日本武道館にて行なわれていた。この時、内閣総理大臣であった三木武夫が右翼団体である大日本愛国党の党員によって顔を殴打されるという襲撃事件が発生した。
命に別状はなかったものの、当時の警護法では護衛の警察官が要人を遠巻きで見守ることしかできなかったため、暴漢に気付けなかったと言われている。この事件によって警護法は見直されることとなり、警視庁にSP隊が発足された。
法が改められるきっかけともなった三木には、彼と同年代で活躍したとある一人の政治家がいる。その人物は、1955年に自由党と民主党の保守合同を実現させ「自民党を創った男」の異名を持った三木武吉(ぶきち)である。
見てお解りだろうが、三木武夫と三木武吉はたった一字違いの名前だ。このため、両者は親戚関係にあるのではないかという噂が当時から囁かれていたと言われているが、当然ながら両者に血縁関係はない。また、武吉は「ヤジ将軍」と呼ばれるほど当意即妙の切り替えしや批判に長けており、彼のヤジには多くの議員が大笑いしたほどであったという。
同年代の似た名前でありながら、穏健であったという三木武夫とヤジ将軍と称された三木武吉はまるで正反対ともいえる性格であったと言えるだろう。
余談であるが、1994年に公開された高畑勲監督作品『平成狸合戦ぽんぽこ』では次のような裏設定が語られている。本作は人間たちによるニュータウンの開発とそれを食い止めようとする狸たちの奮闘を描いた作品であるが、作中に三長老と呼ばれる三匹の狸「佐渡島の団三郎」「讃岐の太三郎禿狸」「阿波の金長狸」が登場する。
以下は山口敏太郎の考察となるが、三長老たちによって話し合いが進めてもなお煮え切る様子の無いその様は、日本の政治構造を暗に表しており、またその三長老は「田中角栄」「大平正芳」そして「三木武夫」がモデルになっており、しかも、それぞれの狸とモデルと思しき各人の出身が同じになっているという。
日本の民話などに登場する日本三名狸のうち「淡路の芝右衛門狸」を除いてわざわざ阿波の金長狸を採用しているのは、やはりモデルとされる政治家たちの出身地を揃える意図があったのではないかということである。
【参考記事・文献】
三木武夫が殴られる襲撃事件。評価と田中角栄、三木武吉との関係。あだ名の由来
https://asuneta.com/archives/84385
SP 要人警護の世界 政治家との距離感は
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/100708.html
自民党を創った男・三木武吉氏の「ヤジ対応能力」
https://say-g.com/topics/1601
平成狸合戦ぽんぽこの都市伝説と裏設定まとめ!実は悲しい反戦アニメ?
https://bibi-star.jp/posts/2409
【文 ナオキ・コムロ】
画像 ウィキペディアより引用 CC 表示 4.0