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「スタートレック」伝説の放送『史上最低の戦闘シーン』とは

『スタートレック』は、1966年から現在に至るまで制作されている人気のSFテレビドラマシリーズである。ドラマのみならず、アニメシリーズや劇場版など多数制作されており、その総話数は700話を超え、現在も更新中となっている。

アメリカを代表する国民的作品となっており、そのタイトルを聞いたことがないアメリカ人はいないと言われるほどである。その影響力は、その作品によって科学技術の道を歩んだ科学者やエンジニアが多く存在することからもうかがい知ることができる。スティーヴン・ホーキングも熱心なファンであったと言われ、携帯電話の開発者であるマーティン・クーパーも本作の影響を受けてその道に進んだ一人であるようだ。

そして超空間移動を意味する「ワープ」という言葉を使い始めたのは、スタートレックであるという。

そのスタートレックには、現在でも語り継がれる放送回・シーンが存在している。それは、シーズン1の第18話(日本初放送では第12話)の「怪獣ゴーンとの対決」という回のものである。

この回は、爬虫類型種族ゴーン人と主人公のカーク船長とが。ある事情から対決をすることとなり、しかも負けた側の宇宙船を乗員ごと破壊するというきわめて厳しい条件が設けられた緊迫した回となっている。

なお、現在このシーンは「史上最低の戦闘シーン」と呼ばれる迷場面として知られている。

ゴーン人は、動きが鈍いものの体が頑丈であり怪力の持ち主という性質を有しており、肉弾戦では勝ち目がないカーク船長は、ある武器を探し出して立ち向かわなければならないという状況となっている。

だが、その戦闘シーンは「全体的にスローでのろい」「動きがぎこちない」「カーク船長は武器を探して逃げ回るのみ」「そもそも戦闘と呼べるほどのシーンが殆どない」というものとなっている。一言で言えば、あまりにも戦闘が地味である。

一応の解釈としては、動きがスローであるのは重力の関係であり、迫力ある効果音が特に持ち入れられないのも宇宙空間を理由とするものもあるが、重そうに石を持ち上げるわりにかなり軽々しく投げつけたり、避ける際の動きが鋭敏であるなど、環境再現に統一感が全く感じられない。




また、それ場面以前に「ゴーン人とカーク船長(人類)は同じ空気を吸って生きてるのか?」「ワープで航行する宇宙船を作れるのにゴーン人はそこまで頭が悪いのか?」「そもそも指示された決闘に対して本当に殺し合う必要性はあったのか?」など、場面設定におけるツッコミどころも多く指摘されている始末である。

1966~67年の作品であるため仕方ないではないかという声もあるにはあるが、この年には日本で特撮テレビドラマ『ウルトラマン』(いわゆる初代ウルトラマン)が放送開始しているため、比較対象となってしまう事態は免れない。

このように、多くのツッコミどころ満載で伝説となった戦闘シーンとなった回であるが、なんと2013年に発売されたゲーム「STAR TREK THE VIDEO GAME」のCMにカーク船長を演じたウィリアム・シャトナー自身が登場し、さらにゴーン人とのあの戦闘を再現するというセルフパロディを行なっている。

そしてこの戦闘では、最後に「もう年だからやめよう」と言って終結する形となっている。

このような伝説的な戦闘シーンとして語り継がれるようになった回であるが、中でも戦闘を指示したメトロン人が、地球人が遺伝的に暴力行為を好むと断じる場面は、人類が知らず知らずのうちにゴーン人の星を荒らしたという、「アメリカの原住民と白人の関係」を示唆しているのではないかとも憶測されている。

そうしたメッセージ性は、カーク船長が戦いではなく話し合いで問題解決をすると言ったことにメトロン人が称賛し、最後には人類の可能性を信じて姿を消すという展開にも見受けられる。

現実の歴史と情勢を投影したそれらの演出が、轟音がするでもない、動きが鋭いわけでもない、そんな史上最低の戦闘シーンを生み出したのかもしれない。

【参考記事・文献】
史上最低の戦闘シーン「怪獣ゴーンとの対決」スタートレック宇宙大作戦を見て検証
https://urashita.com/archives/17200#_ARENA
金字塔SF「スター・トレック」が世界に及ぼした影響を再検証!
https://www.cinematoday.jp/news/N0064548
史上最低の戦闘シーン
https://x.gd/A8YqQ
【スタートレック】これは酷い… 史上最低の戦闘シーンでお馴染み!「ゴーン人」
https://x.gd/pmtLU

【文 ZENMAI】

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