北朝鮮には、男女ともに兵役の義務が存在している。その兵役期間は世界で最も長く、満17歳から男性が10年、女性が5年の兵役が課せられる。とはいえ、元から女性の兵役が義務付けられていたわけではなく、その義務が検討され始めたのは2015年と比較的近年のことであり、実施されるようになったのは2019年、本格的に始動したのは2021年からであるという。
女性の兵役が義務化された理由は1990年代に遡る。
金日成死去後、金正日体制に移行した90年代後半、北朝鮮では朝鮮戦争後最大規模の飢饉が発生しており、95年夏の大水害をきっかけとして最大でも300万人が死亡したと言われている。この時期は出生率も下がっており、また栄養失調のために発育障害を負った子供も多かったという。彼らの世代の人間が兵役の年齢に達してもまともな兵員の補充が困難となり、そのために女性の兵役義務化という措置が取られたと考えられる。
訓練は男女ともに差はなく、凍結した地面での匍匐前進や長時間うつ伏せで行なう射撃訓練など、正規軍で10年に及ぶ兵役を終えた男性でもつらいと言う訓練も行なうこととなる。また、居住環境は20人以上の女性たちと同室で、2段ベッドが用意されている。ヘアドライヤーが配給されることもあるそうだが、電力供給が不安定でまともに使えるものではなく、そもそもシャワーや浴槽といった設備も用意されてはいないため、川からホースで水を取っていたという。
国民の約4割が食糧不足と言われる北朝鮮では、兵役に就く者にとってもそれは例外ではない。
軍隊と言えどもまともな食事が支給されておらず、栄養失調や餓死をする者もいるほどであり、飢えに苦しんだ兵士たちが民家に忍び込み窃盗を働くという出来事も頻発しているという。栄養失調回復のため農場へ派遣されたある女性兵士たちが、骨と皮だけのような体に痩せこけており、その姿を見た住民の中には「軍には我が子を送るまい」と強く考える人も少なくはないという逸話もある。
また、女性兵士にとって過酷なのは訓練内容だけではない。女性に対する性的な嫌がらせや暴行も横行しており、女性兵士の7割がそれによって被害を受けていると言われている。求められれば選択の余地は与えられず、中には妊娠をしてしまったために麻酔無しで強制的に中絶手術を行なった女性もいるという。
なお、こうした女性への行為は最近になり再犯防止の措置が強まっているとも言われている。これは金正恩総書記の妹与正朝鮮労働党副部長が、女性兵士の生活環境改善を図っているためであると言われており、最近では上層部がそういった被害の事実を公式資料で指摘されたという。朝鮮人民軍のある師団の政治部長を務めていた男性が、50人もの女性に対し虐待を加えた容疑で逮捕され極刑に処されたという話もあるそうだ。
だが、女性兵士にとってより切実なのは生理の問題だ。生理によって兵役生活がさらに悪化してしまうことは当然だが、生理用品ですら枯渇している状況において、白い綿のナプキンを何度も再利用するか着古した下着の端切れを用いる必要があるという。一方で、過酷な兵役生活において生理が来ないという女性も多く、彼女たちにとってそうなることは嬉しいことなのだそうだ。
こうした多くの事情から、親が賄賂で娘の兵役を免除されるよう奔走することも珍しくないという。女性兵役の義務化が本格的に始動するまでに期間を要したのは、親たちによる抵抗が原因であるとも言われている。
軍営国家と言われる北朝鮮であるが、その運用はお世辞にもスマートであるとは言えない。
【参考記事・文献】
北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/80c7852b983cceb945c7a95f36a02d6d69ba8dfc
<北朝鮮内部>女性兵士の苦難続く 兵役は17歳から5~6年、性被害や妊娠も
https://www.asiapress.org/apn/2019/02/north-korea/enlisted-woman-sexual-violence/
麻酔ナシで中絶…脱北女性兵士が語った「壮絶性暴行の実態」
https://friday.kodansha.co.jp/article/219140
大事なモノを食いちぎり上官に報復…北朝鮮女性兵士のヤバイ行動
https://friday.kodansha.co.jp/article/186346
(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
TOCANA関連記事
飢餓、性被害……北朝鮮「女性兵士」のあまりにも悲惨な現実