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古代の文献に残された幻の”さまよえる湖”「ロプノール」

気候変動、砂漠化、環境破壊などが原因でその規模が縮小しており、将来的に消失してしまうのではないかと危ぶまれている湖は、世界各地に点在している。

そして現に、古代の文献に記されていながら現代ではすでに消失してしまった湖もある。タクラマカン砂漠に存在していたとされる中国第二の内陸湖、通称さまよえる湖とも呼ばれる塩湖「ロプノール」は、その代表的な存在だ。

紀元前2世紀に成立した文献である漢書の中に、広大な湖の記述が残されている。この湖は、タリム盆地の東側にある『塩沢』と呼ばれていた湖であり、瓢箪型で人間の耳の形のようであったとされているが、3世紀から4世紀にかけて乾燥化が進んだことで肝腎の湖が干上がり消滅、その後どこにあったのかわからない伝説の湖になってしまったのだ。これが幻の湖ロプノールである。

「死の世界」との意味を持つタクラマカン砂漠を縦断するのは不可能に近く、その進路はオアシスに沿って進行する西域北道と西域南道に分けられていた。司馬遷の史記の記述によれば、その分岐地点にはかつてシルクロード時代に存在したと言われる幻の都「楼蘭」があり、ロプノールはその近くに存在していたという。

このことから、ロプノールの発見は幻の都「楼蘭」の発見にもつながるものとして、地理学にとどまらず考古学や歴史学の関係者の関心の的となり、多くの探検家が調査することなった。

ロプノールを巡る論争は1870年代、軍人・地理学者のロシアのプルジェヴァリスキーが湖の場所を発見したと発表したことで始まった。彼はタリム川下流の調査で2つの湖を発見し、地理的に似ていたことからロプノールに違いないと主張したのである。

しかし、これについてドイツ地理学者リヒトホーフェンが、2つの湖が塩湖ではなく淡水であったことや場所が南に寄りすぎているということから反論を投げかけた。両者の中で始まった論争は、その後それぞれの弟子コズロフとヘディンへと継続されるほどに一大論争へ発展していった。




歴史的快挙となったのは1900年のこと。ヘディンの2度目の中央アジア探検となったこの時、彼ら探検チームはタリム盆地の北側からロプ砂漠に入り、かつてプルジェヴァリスキーとリヒトホーフェンの論争となった、史記より南にあったというロプノールの場所を目指していた。

この結果、湖の底であったと思われる場所から貝殻や枯れ木が無数に発見され、さらに掘り進めていくと古代の住居跡や古銭、花模様が掘られた木板も見つかった。ロプノールが見事に発見されたのだ。

さらに幸運となったのは、ヘディンの体験に加わっていたウイグル人エルデクの存在だ。彼は必需品であるシャベルを途上で訪れた廃址(はいし)に忘れてしまい、一人で取りに戻った。しかし、その途中で彼は仏塔や多数の住居址を新たに発見し、なんとこれが楼蘭であったことが判明したのだ。

ロプノールに流れ込んでいた川の流れが、砂の堆積や風食作用によって河道が変化し、この結果ロプノールには水が流れ込まずに消失し、プルジェヴァリスキーの発見した2つの湖が出来上がった。そして、この流れは周期的に南北を移動しており、ロプノールは再び元の位置に戻ってくる。

このヘディンの学説により、ロプノールは「さまよえる湖」という通称で知られるようになった。実際この学説を裏付けるように、1921年にタリム川の川の流れが変わったことで湖が復活したのだった。

だが残念なことに、中国科学院によれば1959年まではロプノールの存在が確認されていたものの、60年代初頭には消失したと推定されている。これは、乾燥のほかタリム川上流にダムが建設されたことなどが要因として考えられており、結果としてロプノールは再び干上がり、現在は湖床を貫く省道235号線が敷設されている状態となっている。

さまよえる湖が今後帰ってくることは、おそらくないのだろう。

【参考記事・文献】
地球が見える 2007年
https://www.eorc.jaxa.jp/earthview/2007/tp070516.html
一体なぜ?世界の消滅した湖10選(アラル海・チャド湖ほか)
https://zatsugaku-mystery.com/extinct-lake/
「さまよえる湖」の謎を解いたヘディン:ロプ・ノールと楼蘭
http://dsr.nii.ac.jp/rarebook/06/

(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 NASA. Image courtesy of Earth Sciences and Image Analysis Laboratory, NASA Johnson Space Center. Color adjusting of this image (using Adobe Photoshop 6.0): Michael Gaebler, 02. March 2006, own work, all rights released (Public domain). – NASA Mission: STS047, Roll-Frame 151 – 26, File name STS047-151-26.JPG. . See also: ., パブリック・ドメイン