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「魁!!男塾」が生み出した架空の出版社「民明書房」がもたらした影響力

画像『魁!!男塾 第34巻 Kindle版

『魁!!男塾』は、1985年から91年まで週刊少年ジャンプに連載されていた漫画家宮下あきらの漫画作品。札付きの不良たちをスパルタ教育して一人前の”漢”(おとこ)に育てる「男塾」を舞台とするバトル・ギャグ漫画であり、その型破りな展開や破綻したストーリーが人気を博した。

男塾といえば、有名なのは「民明書房」(みんめいしょぼう)と呼ばれる出版社であろう。民明書房とは、作中で登場する多彩な技や武術について、その解説が挿入される際に引用される様々な文献の出版元として併記される出版社名である。とはいえ、登場する技や武術はどれも人間離れしたような荒唐無稽なものばかりであり、引用文献やその出版元である民明書房も全て架空のものである。

つまり、存在しない技、本、会社をまとめて一つのネタとしたこの作品独自の様式だ。

例えば、「纏ガイ狙振弾」(テンガイソシンダン:ガイは「亥」「欠」の合字)は、地面に設置した鉄球を相手めがけて打つというゴルフスイングに酷似した技であり、中国の呉竜府(ごりゅうふ)という人物によって創始された奥義として、またその創始者の名や技のスタイルから「ゴルフの起源」と言われているとの旨が解説されている。


おわかりの通り、あまりに荒唐無稽な名前や解説内容ではあるが、妙に写実的・学術的な語り口によって迫真的に綴られていることから、その解説はおろか、民明書房自体を実在のものと信じる読者が多数出現したのである。中には、古書街の古本屋を巡って実際に民明書房の書籍を探す人たちが続出したり、「内容が間違っている」という真面目なクレームが寄せられたりといった例が多数見られたという。

また一説には、これらのことで連載後期からあからさまにフィクションであるとわかるような内容にしていったとも言われていることから、いかに本作の影響が大きいものであったかがうかがえる。

この民明書房は、現在も他作品や二次創作においてオマージュが行われている。一例として挙げると、サーバーパンクニンジャ小説として一時期絶大な人気を誇った『ニンジャスレイヤー』において、「古事記にもそう書かれている」というフレーズが存在する。この作品における古事記とは、その作品の世界の教養や作法を記した絶対的な書物という位置づけがなされており、知っていて当然、書いてあるからには絶対的な正義、という扱いがなされており、その用法としては民明書房と同様である。




あくまで、「真面目に書かれたネタ記事」という体裁をとる民明書房であるが、近年ではこれによって少々のいざこざも見られている。2021年、Twitter(現X)において百田尚樹の著書『日本国紀』を茶化したような内容のツイートが投稿され、その際に当該書籍にまつわる経緯とその引用文献が民明書房名義で書かれた、しかもこのことについてあるジャーナリストが「この出版社の存在を初めて知った」「事実無根だ」と反論するに至ったのである。

この件は、「民明書房すら知らないのか」といった冷ややかなコメントが多く寄せられていたものの、裏を返せば「民明書房」という名を借りればいかなる非難や罵倒もネタで済まされるといった体質を生みだしかねないのは確かだろう。

民明書房は、嘘か本当かのギリギリを攻めたネタであったと作者も明言していたという。それはある意味で、あらかじめ創作であるを銘打った都市伝説を生み出すような革新的なシステムであったようにも考えられるだろう。だが、ネタとして愛されている一方で、無暗な悪用ともとれる方向へ進んでしまうことは、なんとしても避けて欲しいものだ。

因みに、民明書房の創業は1926年であると設定されているが、これはジャンプの発行元である集英社の創業と同年である。

【参考記事・文献】
民明書房
https://x.gd/qJt9p
【魁!!男塾】衝撃的な裏事実…民明書房の説得力あるウソ説とは?徹底解説
https://x.gd/nDpFM
【悲報】有本香、ネタにマジレス!民明書房を実在出版社と勘違い「名誉棄損の疑いだ!」と怒る
https://matomame.jp/user/yonepo665/0ec0abc4d693f0301c3f

(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)