事件

地底を探検し最後には龍となった?!「甲賀三郎」の不思議な伝説

南北朝時代に編纂された説話集・神道書である『神道集』の「諏訪縁起事」に登場する甲賀三郎は、大岡寺観音堂縁起のほか民話にも登場する伝説上の人物として知られている。甲賀三郎の伝説は、ものによってところどころ違いはあれども、おおよそ以下のようなものだ。

第三代天皇である安寧天皇の五大の孫である甲賀諏胤(よりたね)の三男として生まれた三郎には、太郎、次郎という二人の兄がいた。三郎は諏種の死の直前後継ぎに指名され、その後春日の姫という美しい女性とも結ばれた。

ある時、春日姫が天狗さらいに遭い姿を消してしまう。三郎は二人の兄と共に行方を捜した末、信濃の蓼科(たてしな)山の「人穴」で姫の着物の片袖を見つける。三郎は人穴に入り無事春日姫を見つけ帰ろうとするが、鏡を忘れたということで三郎一人が再び人穴へ戻ったその時、三郎をねたんでいた太郎と次郎が穴につけた綱を切り落としてしまい、三郎は穴の中に取り残されてしまった。


穴の中をさまよっていた三郎は、そこで地底世界を巡り歩き、最後に「維縵国」(いまんこく)へとたどり着いた。その国の王の末娘である「維縵姫」と結ばれ子どもももうけ、楽しい生活を続けていたが、気が付けばなんと13年6か月(9年との説もあり)の歳月が流れていたのだ。

地上へ戻りたいと願った彼は、姫から道を教わり、王から鹿の生肝で作られた千枚の餅を食料としてもらい、毎日1枚ずつ食べながら道をたどっていった。そしてついに、浅間山に出られた彼であるが、なんそその姿は龍となっていたのだ。嘆いた彼であるが、一目妻の顔を見ようと蓼科山に戻ると、春日姫は行方不明となった三郎のことを嘆き、諏訪湖へ身を投げ龍となって湖底に棲んでいた。そして三郎はその諏訪湖に飛び込み、二人は再会を果たした。

結末については、彼が地底から出て龍の姿になっていた時、人間の姿に戻りたいと数人の僧たちに願い、果てして元に戻り人間の姿で春日姫と再会し、のちに諏訪大明神の上宮、下宮に祀られるようになったとも言われる。また、維縵姫が隠れ妻を決意して三郎のあとを追い、地上にやってきて浅間大明神になったというものもある。




この伝説を見てみると、かなり内容の起伏が激しいことがわかる。天狗さらい(神隠し)が出てきたかと思えば、地底世界での生活が描かれ、さらには龍の姿となり神となる。このことから甲賀三郎の伝説は、日本で伝えられている数々の民話や伝説が混合された話であると考えられる。

兄弟たちを差し置いて姫との結婚を成し遂げ、地底の国をたずねるという話は、大国主の伝説と酷似している。このことは、大国主の子である建御名方(たけみなかた)が、諏訪の神として祀られていることも関係しているのだろうか。また、諏訪の地には古くから蛇や龍神の信仰も残っていたことから、日本神話と土着の伝承が融合した物語が甲賀三郎伝説となってまとまったのではないかとも言えるだろう。

【参考記事・文献】
山口敏太郎『怨霊と呪いの日本史』
大国主命(オオクニヌシ)の波乱万丈記すぎる神話
https://zinja-omairi.com/ookuninusi/#i-5
建御名方神 争いに敗れ諏訪に逃れた蛇神(日本神話)
https://x.gd/GArDN
龍宮城は意外な場所にあった?龍ゆかりの諏訪大社と甲賀三郎伝説
http://fushigi-chikara.jp/sonota/6582/

【アトラスニュース関連記事】

【アトラスラジオ関連動画】

(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

Photo credit: kzy619 on Visualhunt